【受賞】国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 クリスはフローラが作ってきた焼き菓子を口にくわえ、彼女をじっと見ている。その焼き菓子が、彼の口の中へ入ることなく、その歯に挟まれたまま。
「さあ、どうぞ」
 とクリスが、フローラの両肩に手を添える。
「え」
 驚くフローラ。どうぞ、と言われてもお菓子は彼の口に挟まれているわけで。どうやって食べろ、と。
 ほら、ほら、と言わんばかりに、クリスがくわえたお菓子を突き付けてくるので、フローラは思い切ってそのお菓子を口で奪い取った。途中でパリンと、二つに割れる。
「私としては、このままあなたが食べてくれることを期待したのですが」
 半分に割れたお菓子を食べ終えたクリスが言った言葉がそれ。
「それでは、その、クリス様と唇が当たってしまいますから」
 恥ずかしそうに下を向いて、フローラは言う。
「それを期待していたんですけどね」
「え」
 と、再びフローラが顔をあげると、不意にクリスの顔が迫ってきて、ちゅっと軽く唇が重なった。
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