【受賞】国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
　こうやって食事をテーブルに並べると、あのサミュエルの不満な顔と声が思い出されて、きゅっと身が引き締まってしまうのだ。
　フローラはピタを食べやすい大きさに切って、小皿の上にのせてクリスの前に置いた。
「では、いただきましょう」
　クリスの祈りの言葉に合わせて、フローラも祈りの言葉を口にする。命あるすべてのものをいただくための儀式。
　フローラはこのような穏やかな気持ちで食事を迎えることができたことに、喜びを感じていた。
「熱い」「固い」「飽きた」と、食事のたびに何かしら文句を言われることを覚悟していたあのときとは違う。
「お口にあいますか？」
　あのときとは違うとは思いつつも、ついそうクリスに尋ねてしまった。心の奥底で支配されているあのときの気持ちがあるのかもしれない。
「ええ。このようなものはあまり食べたことはありませんが、これはとても美味しいですね」
　クリスの言葉に、フローラは安堵の笑みを浮かべた。これがあのサミュエルだったら「普通」という答えが返ってきたことだろう。
　食事が半分ほど進んだところで、クリスが口を開いた。
「先ほどの男は」
　言いかけたところで、間違いなくサミュエルのことを聞きたいのだろうなとフローラは察した。
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