聖なる祈り
 天使は亡くなった魂を天国へと送る仕事を担っているらしく、死亡者リストと呼ばれるものを何枚も持っていた。

 彼女(未練)にしがみつき、成仏を拒む僕にかかりっきり……、という訳にもいかず、その都度どこかへ飛んで行ってしまうが、手が空いた時にはまた僕の前へと現れる。

「成仏するとしても……星伽をこのままにはしておけない」

 電気も点けない暗い室内で、彼女は呼吸と瞬きしかしなかった。肌は乾燥し、唇はガサガサに乾いて皮が剥けている。

 そんな彼女を見て、ふと僕が演じていたハルトを思い出した。

 こんなふうなんだ。

 未来に希望を見出せず、死んでしまった方がいっそ楽かもしれないと思う姿は、余りにも哀れで痛々しい。

 大切な人を失うという現実(リアル)を、まざまざと見せつけられたような気がした。

 映画の脚本に照らし合わせると、俺が死んだ"アヤ"で、星伽が"ハルト"なんだ。

「なぁ」

 ズズ、と洟を啜り、そばに立つ天使に話しかけた。

「死んだ俺が彼女と話す方法は、本当に無いのか?」

《……無いよ》

「そっか……」
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