聖なる祈り
演じきる
「っよし! カーット!」
監督の指示で、僕は現実へと連れ戻された。
「いやぁ、良かったよ、叶多! ハルトの絶望感がビシビシと伝わってきて……迫力があった!」
「……あ。ありがとう、ございます」
嬉しそうに笑う監督に背中をポンポンとされ、成功の二文字をじわじわと噛み締める。
「よくやったな、叶多っ」
マネージャーからハンカチを渡され、自らの涙でびしょ濡れになっていた頬を拭く。
自分でも不思議な感覚だった。
あれほど分からなかったハルトの心情が、手に取るように理解できた。そしてそれが分かったのは、実は星伽のお陰だったりする。
演じるのが難しいと愚痴をこぼした僕に、彼女は言った。
『砂漠に放置された一輪の花……、かもしれない』
『え……?』
『大切な人を亡くしてまで生きなければいけないって……。きっと水を貰えない花みたいなものなんだと……私は思うな』
未来を見出せない地獄を、彼女はそう喩えて言った。
カラカラになって朽ち果てても、絶望は消えない。無気力になってただ心臓が止まるまで生かされる。
想像でしかなかったが、不思議とその感覚が理解できて、演じる事に成功したのだ。そうとしか思えなかった。