聖なる祈り

白い羽


 映画の撮影は滞りなく進められ、無事にクランクアップを迎えた。

「あの……っ、大林 叶多さんですよね? 握手して貰ってもいいですか?」

 冬に公開された映画を機に、僕の名前が少しずつ世間に知れ渡っていた。

「……あ、はい」

 帽子やマスクなどで変装している時はまだ平気だが、サングラスや眼鏡だけの日は度々街中で声を掛けられた。

 *


「……っあ!」

 突き抜けるような晴天の下で、ふいに星伽が声を上げた。

 彼女と並んで公園を歩き、ちょうどベンチに座ろうかと話していた時。彼女が宙空を指差した。

 僕も空を見上げる。帽子のつばの先に、ふわふわと白い綿毛のようなものが、風に舞って落ちてくるのが見えた。

 それはそのまま星伽が履いていたピンク色のスニーカーを撫で、彼女が細い指先でつまみ上げる。

「……羽?」

 そう言ってから、以前にも同じ事があったなと既視感に支配される。

「天使……の羽かな?」

 一年前の記憶を辿り、彼女の真似をして言うが、彼女は口元を緩めたまま、ううん、と首を振った。

「これは鳥の羽……。なんだろう? ハトかな?」
< 15 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop