聖なる祈り
俳優業
「っカーット!!」
渋い顔付きで手を振り、現場指揮者である監督は僕にダメ出しを告げる。
「ダメだ叶多、そんなんじゃ。ハルトの絶望感が全く伝わってこない」
「……すみません」
僕は自身の不甲斐なさに深々と頭を下げた。現場は一時白け、休憩を挟んでから再スタートの流れになった。もう何度目かのリテイクか分からない。
撮影スタッフにそれぞれ頭を下げると、中には気さくな人もいて「気にするな」と労いの言葉を掛けてくれる。
優しい人がいるからこそ、僕は余計に申し訳なく思う。
上手くできない。
僕は何度読んだか分からない台本を握りしめ、パイプ椅子に座った。
冬に公開される映画で準主役という大役を貰っていた。
容姿に恵まれた事から高校卒業と同時にモデル業を始め、一年半が過ぎた頃から俳優業へと移行していた。
今回のキャスティングは、どうやら監督から見た目の良さを買われて仕事が回ってきたらしい。
俳優、大林 叶多の知名度はまだ低いが、ここが正念場だと心得ている。
「この役を上手く演じ切れたら俳優として一皮むけるだろう」とマネージャーからも期待されている。