聖なる祈り

本当の絶望


 成仏を促す天使を無視して、僕は片時も彼女のそばから離れなかった。

 星伽は僕が亡くなったという現実を受け止めきれずに、生活のほとんどを疎かにしていた。

 日々の仕事を放棄し、暗い部屋の中で涙に明け暮れる毎日を過ごしていた。

 おそらく外界(そと)では僕の葬儀が行われただろうが、彼女は部屋から一歩も動かない。

 ろくに食べる事もせず、次第に感情が乏しくなり、無表情になった。さながらそれは人形と等しい無機物で、生きる事を放棄しているように見えた。

 星伽の精神が崩壊へと向かっているのだと思った。

 僕は霊体のままで、そんな彼女を見守る事しかできなかった。むしろ霊体の僕がそばにいるからこそ、彼女は肉体的な機能をも衰えさせているかもしれないのに……。

《それ以上キミがそばにいると、彼女は間違いなく死ぬよ?》

 天使は僕の懸念を見透かし、容赦なく離別という名の成仏を勧めた。

「もう俺の事は放っておいてくれ」

 分かっているのに、離れられない。こんな状態の星伽を放って、天国へ逝く事はできない。

《そういう訳にはいかない。キミのリストはボクの手にあるんだ、ボクが送らなければいけない》
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