硝煙の恋/悶ずる少年の死夏ー歪んだ憧憬模様ー
ある計画
ある計画
いくらソフトとはいっても、”この手”の人間がそれなりにハイプレッシャーに迫ってくるとやはり威圧される。静人はさっきまでの無気力モードから少し抜け出せていた。
”関連って言ってたけど、それって、もしや彼女のことか…?”
どうしてもそういうところに頭が行ってしまう…。だが静人の中では、少なからず”期待”があったのは事実だった。
「中野君、他でもないが、話は本郷麻衣ということになる」
椎名からはいきなり直球が飛んできた…。
...
「…あえてストレートに言う。本郷に不快感を持つ者、恨みを持つ者、憎らしく思う者、ヤツに痛い目に遭った者が一定の集結をみてる。近々、行動に出ることになりそうなんだ」
「ちょっと、待ってください!彼女をその…、もしかしたら…⁉」
静人は途端に慌てふためいた。いくら忘れるべき彼女ではあっても、自分にとって大事な人には変わりない。静人は前のめりになって、訴えかけるような目を椎名に向けた。
「ふふ、早とちりすんな。ちょっとお仕置きを加えるって程度だよ。何しろ、ここ最近のあの娘はやりすぎている。明らかに度を超えてるさ。それは君だって理解できるだろう。君が知らないことを一つ上げれば、ごく最近でも組織に泥を塗った相和会のチンピラを組の幹部とともにリンチして、指を切断したその場を主導したんだ、あの小娘がな…。君と同じ17歳だぞ、常識じゃあ考えられんよ。いくら組の幹部と婚約したと言っても、目に余る。業界ではもはや看過できないという風潮が成熟してるぜ」
確かに彼女の所業はハンパない。いつもながらコレ系の出来事を知らされるたびに信じられないくらいに驚く。静人はまず、自身もそれを認識した上で椎名に尋ねた。
「なら、お仕置き程度で済むんでしょうか。業界の人が怒ってるんであるなら、それなりのレベルの行動ってことになるんじゃないんですか?」
「そうなるが、じゃあ、仮に関東のそれなりの組織が今の本郷麻衣に手を下したとして、現実に関西とも協力体制を敷いた新体制の相和会が黙ってると思うか?そんなことしたら、戦争だ。それは絶対にできない。あの業界にも抑止力が働いてるからな。だから、業界外で、しかも限度を持っての範囲で収める対処となる」
静人はこの説明で概ね呑み込めた。では、実際に彼女には誰がどんな仕打ちを与えるというのか…。
...
椎名の説明はここでも明瞭だった。
「…行動する当事者は、俺たちのカテゴリーに属する人間になる。あくまで非やくざの業界外に身を置く人間が手を下す。で、具体的には、少々、女として恥をかかせるってラインだよ。要は天狗になってるあの娘の自尊心を踏みにじる結果を得る。こんなところなんだわ」
「あのう、女としてのってことは…」
「強姦ってことになるけどな。…これも君は知らないだろうが、彼女は体を奪われそうになって、相手の男のイチモツを切り裂いた前歴があるんだ。フフ、だから最後までは無理だって。で、未遂で良しとする。そんな想定だわ」
「…」
「君は本郷に強い思慕を寄せているようだが、昨夜のことや今まででも、率直に言ってかわいさ余って何とやらって感情はあるんじゃないのか?」
これは正直なところ、図星だった。麻衣のことは好きでたまらないし、虜になってる。だが他方で、いじわるしたい、心を傷つけたい、小憎らしいって感情もある。
行き着くところ、彼女のすべてに興味を惹かれる。…彼は自分の中での結論をこう置いているようだった。
...
「そこで話すぞ。今回の計画には、あの娘をおびき出す手立てがポイントになる。相和会もマンツーマンのガードは外したようだが、麻衣の周囲には常に目を光らせているからな。昨日、ヒールズのカウンターに陣取っていた男は相和会の人間だよ。店での用心棒って訳だ。まあ、やたらなお誘いでは怪しまれて計画が実行できないわな。となれば、必然性という点では、君が彼女を引っ張り出すのが現実的にみて、もっとも望ましい。こっちはそういう判断でいるんだがな…」
”なるほど、そういうことか…”
さすがの静人もここで直感した。”それで、この人達はどの程度までオレのことを誘導したいんだ”、更に彼の疑念はそこに向いた。
「…どうやら察したようだな。まあ、それが俺たちのやり方なんでな。悪く思うな。君に対して麻衣がどのような態度をとるか、こっちは百も承知だった。それを受けて君みたいな”純”な坊やがどういう胸中に陥るか…」
「じゃあ、昨日も意識的にヒールズの前で降ろしたんですね。僕を泥酔させて…」
「中野君、まずは押さえておけ。君が麻衣と再会した時点で、君は所詮、麻衣から解放されなかったんだよ。いつまでも麻衣のことを想って、紋々と過ごす毎日だった。それは避けられなかった。違うか?」
”違わないさ!”
静人は迷わず心でそう答えた。
いくらソフトとはいっても、”この手”の人間がそれなりにハイプレッシャーに迫ってくるとやはり威圧される。静人はさっきまでの無気力モードから少し抜け出せていた。
”関連って言ってたけど、それって、もしや彼女のことか…?”
どうしてもそういうところに頭が行ってしまう…。だが静人の中では、少なからず”期待”があったのは事実だった。
「中野君、他でもないが、話は本郷麻衣ということになる」
椎名からはいきなり直球が飛んできた…。
...
「…あえてストレートに言う。本郷に不快感を持つ者、恨みを持つ者、憎らしく思う者、ヤツに痛い目に遭った者が一定の集結をみてる。近々、行動に出ることになりそうなんだ」
「ちょっと、待ってください!彼女をその…、もしかしたら…⁉」
静人は途端に慌てふためいた。いくら忘れるべき彼女ではあっても、自分にとって大事な人には変わりない。静人は前のめりになって、訴えかけるような目を椎名に向けた。
「ふふ、早とちりすんな。ちょっとお仕置きを加えるって程度だよ。何しろ、ここ最近のあの娘はやりすぎている。明らかに度を超えてるさ。それは君だって理解できるだろう。君が知らないことを一つ上げれば、ごく最近でも組織に泥を塗った相和会のチンピラを組の幹部とともにリンチして、指を切断したその場を主導したんだ、あの小娘がな…。君と同じ17歳だぞ、常識じゃあ考えられんよ。いくら組の幹部と婚約したと言っても、目に余る。業界ではもはや看過できないという風潮が成熟してるぜ」
確かに彼女の所業はハンパない。いつもながらコレ系の出来事を知らされるたびに信じられないくらいに驚く。静人はまず、自身もそれを認識した上で椎名に尋ねた。
「なら、お仕置き程度で済むんでしょうか。業界の人が怒ってるんであるなら、それなりのレベルの行動ってことになるんじゃないんですか?」
「そうなるが、じゃあ、仮に関東のそれなりの組織が今の本郷麻衣に手を下したとして、現実に関西とも協力体制を敷いた新体制の相和会が黙ってると思うか?そんなことしたら、戦争だ。それは絶対にできない。あの業界にも抑止力が働いてるからな。だから、業界外で、しかも限度を持っての範囲で収める対処となる」
静人はこの説明で概ね呑み込めた。では、実際に彼女には誰がどんな仕打ちを与えるというのか…。
...
椎名の説明はここでも明瞭だった。
「…行動する当事者は、俺たちのカテゴリーに属する人間になる。あくまで非やくざの業界外に身を置く人間が手を下す。で、具体的には、少々、女として恥をかかせるってラインだよ。要は天狗になってるあの娘の自尊心を踏みにじる結果を得る。こんなところなんだわ」
「あのう、女としてのってことは…」
「強姦ってことになるけどな。…これも君は知らないだろうが、彼女は体を奪われそうになって、相手の男のイチモツを切り裂いた前歴があるんだ。フフ、だから最後までは無理だって。で、未遂で良しとする。そんな想定だわ」
「…」
「君は本郷に強い思慕を寄せているようだが、昨夜のことや今まででも、率直に言ってかわいさ余って何とやらって感情はあるんじゃないのか?」
これは正直なところ、図星だった。麻衣のことは好きでたまらないし、虜になってる。だが他方で、いじわるしたい、心を傷つけたい、小憎らしいって感情もある。
行き着くところ、彼女のすべてに興味を惹かれる。…彼は自分の中での結論をこう置いているようだった。
...
「そこで話すぞ。今回の計画には、あの娘をおびき出す手立てがポイントになる。相和会もマンツーマンのガードは外したようだが、麻衣の周囲には常に目を光らせているからな。昨日、ヒールズのカウンターに陣取っていた男は相和会の人間だよ。店での用心棒って訳だ。まあ、やたらなお誘いでは怪しまれて計画が実行できないわな。となれば、必然性という点では、君が彼女を引っ張り出すのが現実的にみて、もっとも望ましい。こっちはそういう判断でいるんだがな…」
”なるほど、そういうことか…”
さすがの静人もここで直感した。”それで、この人達はどの程度までオレのことを誘導したいんだ”、更に彼の疑念はそこに向いた。
「…どうやら察したようだな。まあ、それが俺たちのやり方なんでな。悪く思うな。君に対して麻衣がどのような態度をとるか、こっちは百も承知だった。それを受けて君みたいな”純”な坊やがどういう胸中に陥るか…」
「じゃあ、昨日も意識的にヒールズの前で降ろしたんですね。僕を泥酔させて…」
「中野君、まずは押さえておけ。君が麻衣と再会した時点で、君は所詮、麻衣から解放されなかったんだよ。いつまでも麻衣のことを想って、紋々と過ごす毎日だった。それは避けられなかった。違うか?」
”違わないさ!”
静人は迷わず心でそう答えた。