硝煙の恋/悶ずる少年の死夏ー歪んだ憧憬模様ー

甘言

甘言


椎名は、彼のその表情で”返事”を得ると、いよいよ詰めに入った。

「…では、そういうことならだ、どうすればいい?」

「わかりません。っていうか、解決方法はないかもしれませんね。僕みたいな弱い人間には」

「ハハハ…、そんなセリフで力強く断言するなよ。まずは肩の力を抜け。そんで、きれいごとはさっぱり捨てちまうんだ。今言った麻衣への感情で、ガス抜きできることを考えるんだよ。まず、あの女はお前がいくら迫ってかけても抱かせてくれねえよ。永遠にな。かと言って強引ってんなら、あそこをちょん切られちまう(苦笑)。でだ…、ここはな、凶暴なあの女を何人かで未遂まで持っていく…」

”ふざけんなって、集団暴行かよ!”

静人はのど元まで出かかったこの言葉をなんとか飲み込んだ。その上で、まずは全部を聞く。そう思ったからだ。

...


「…君はその現場を見届けるんだ。本郷麻衣の抵抗する姿を自分の目でしっかりとな…。それで変われる。こっちもコトの後、相和会サイドに差出す人間は用意しているが、あまりハードなとこまでやっちまうと、それじゃ収まりつかなくなるから加減には神経を使うさ、そりゃあ」

この人の説明は、えげつない内容の話ではあるが、どこか静人にはすんなりと入ってくるものもあった。加えて、なんだかんだ言っても現実をしっかり認識して上でってところは伝わってきた。なので、もう少し黙って聞いてみようと…。

「…だからフラれたとはいえ、お前が大事に思う彼女には、一線を越える危害を加える”つもり”はない。まずよう、そこは安心しな。必死に抵抗してるあの子を見て、助けたいと勇気が湧けばそれに従っていい。どうだ、やってみるか?」

「即答できません。それに、このこと、僕が彼女に告げたらどうするんですか?困るでしょう、そちらは」

「俺らは120%成功を確信できなきゃ行動は起こさん。計画は流せばそれで済む。それだけのことだ。ああそれと、こっちのことをお前が漏らすのは自由だが、確実に死ぬから。あしからずだ」

「よーく、わかりました。あなた達の腹は。麻衣ちゃんのことは大切ですが、自分も死にたくありませんから。あしからずです」

「はは、そういう考え方、今後も癖つけとけ。この世を渡って行く上で重要な思考だからな。…最後にもう一つだけ言っとくぜ。”今の”アタマで、よくかみ砕いてみろ。利用できるモンは利用できれば、それに越したことねえんだからな。武次郎さんが言うには、お前の先輩、あのイノシシの方だ。麻衣をヤル気でいる」

”なんだって‼”

思わず静人はいきり立ったが、考えてみれば8月31日はそれに近いことを高校中退組3人で目論んでいたんだ…。静人は反射的にそのことを思い起こした。

...

「まあ、無論テメエだけじゃ無理だから、当日そういう可能性に出くわせばだ。面が割れねえようにマスクしてな。仮にそうなったらよう、そこの場面でお前は自分の心に従って行動してみればいいさ。醜いイノシシに襲われる麻衣を気の毒に思って助け出すか、それとも麻衣がヤラれる姿を見たいから傍観するか。いい機会だから試してみたらどうだ?変われるぜ、きっと。今の苦しい気持ちに決着を遂げられるんだ。そして、そういう舞台をセッティングできるのはさっきも言ったが、君しかいない。よく考えな」

ここで椎名は店を先に出た。残された静人は、しばらく席から立ち上がれないほど体が重かった。心の中も…。

...

その後、椎名はイノシシとも話の場を持った。

「…お前、中野の坊やが麻衣を呼び出す決心をしたら、奴も誘え」

「えっ?一緒に強姦しようってですか?」

「そうだ。お前ら3バカが麻衣の自作自演劇に駆り出されたあの日を思い出したようだわ、あの坊や。そもそも、あの娘に対しては3Pでのお楽しみが目的で、抵抗すれば3人がかりで力づくって青写真だったんだろが」

「まあ、そうですが…」

「ふふ…、そのお相手があのイカれた本郷麻衣だったってのは後から知ったんだろうが。こっちもよう、パートナーさんからのオーダーもあって、あのイカレ娘には、女としての自尊心を踏みにじる程度で留めるつもりだしな。あんまりやりすぎりゃあ、その後が怖い。こっちもな。今回は程々のとこまでなんだから好機だろう。ヤレないまでも、素っ裸にしてヤツのあられもない痴態を拝むだけでもオツってもんだ(薄笑)」

「はは、そうっすね」

イノシシはすでに麻衣の裸体を想像して悦に入っていた。それはまさに欲情したイノシシそのものであった。

...


「…おう、ご苦労さん。なら、二人にはクロージング済んだんだな?」

「はい。中野のリターン待ちです。数日様子を見ようかと思ってるんですが…」

「2日にしとけ。明後日、向こうから何も言ってこなきゃ、こっちから聞き質せ。イエス以外ならその場で俺に連絡だ」

電話越しではあったが、椎名は改めて大打ノボルが”本気”だと感じとっていた。






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