硝煙の恋/悶ずる少年の死夏ー歪んだ憧憬模様ー
屈折の恍惚夜
屈折の恍惚夜
「…いいか、静人。お前に仮に会っても、話す前にぶん殴るって。この前みたいな張り手なんかじゃないぞ。グーパンチでボコボコだ。…はー?それでもいいから会ってくれって?…よし、なら一つだけ誓え」
静人の執拗な泣き落としが延々10分に及び、麻衣はついに折れた。何度も一方的に電話を切ろうとした寸前で、”電話切らないで、もう一言だけ…”、そのたび、この静人のワンフレーズで訴えかけられ、麻衣はさらに熱くなっていったようだった。結果的に静人が粘り勝ったと言える。
その要因は、麻衣から自分へのボロクソな罵倒を全部吐き出せ、まずあきれ果てさせたこと。これがポイントだった。静人の徹底した自己嘲笑風の懇願ぶりに最初から”反応”してしまった為、麻衣にとっては突き放しどころを逃してしまったのかもしれない。
...
「…今度会ったら、ホントに最後なのは言うまでもないが、絶対に電話も手紙も伝言も一切ダメ。要するに私は、あんたを抹消する。約束破ったらぶっ殺す!本気だぞ、私は。…何?私はその気になれば男の下半身も切り裂くくらいだからわかってるって?いい加減にしろ、このアホー!」
”ああ、疲れた…。ストーカーの気があるんじゃないか、あの男…”
結局麻衣は、最後の最後という約束で3日後、K市郊外の通称、高台広場で待ち合わせというアポイントに同意した。
...
「ハハハ…、麻衣の根負けか。その坊や、なかなかねばり腰だなあ」
「ダーリン、笑いごとじゃないわよ。あんなしつこいとは思わなかったわ。まあ、ついでにこの前撮った写真現像して渡してくるわ」
「でも、麻衣ともあろうものが、その坊主には妙に甘いって気はする。なんでなんだ?」
「よくわかんないんだ、それが。確かにキツイことは言うんだけど、どこか温情みたいなもんを発してる気は自分でもする。まあ、何となくだけど。ともかく、これが最後だ。今度舌の根も乾かないうちにひょこひょこお出ましならマジ、ぶっ殺すわ」
「ハハハ…、普通なら、やくざの旦那に殺させるわよとかになるのにな。俺を出すなんてこと、アタマにもないとこがお前らしいや。先日の夜もせっかく能勢がボディーガードで控えているのに、全部自分で片づけて出番も与えねえでよ。ヤツ、苦笑いしていたぜ」
本日の当番であった婚約者の倉橋優輔は、麻衣の話を笑いながら聞いていた。倉橋からすれば、今の麻衣にとって、静人ごときは単なる子供の”部外者”以外の捉え方はできなかったのだ。
所詮、この麻衣にかかっては取るに足らないコドモだと…。
...
「じゃあ、引き上げるか?今日は俺の部屋に泊りでいいんだろ?」
「ええ。お母さんには言ってあるから今日はそっちに泊まるわ。でも、一件電話したいんだ。いいかな?」
「ああ。例の先輩か?」
「そう。3日に一度は情報の確認をね。今日は夜いるって聞いてるからさ」
「なら、上にいるわ。終わったら呼んでくれ」
「オッケー!」
...
麻衣が婚約者である愛しの撲殺男とそんな会話を交わしてる同時刻…。
中野静人は、麻衣を落とせたという充実感に浸っていた。故に、彼自身の中にあった二つの心がひとつに合わさっていたのだ。
”フフフ…、俺はやれた!どんな奴も出来得ないであろう、本郷麻衣の誘い役を全うできたんだ!”
歪んだ憧れと、屈折した愛情の沼に頭まで浸かった17歳の少年…。この夜から、もはや彼の心と脳裏には麻衣が自分たちに服をはぎ取られ、女として辱めを受ける彼女の姿がべったりとこびりつく。
そして毎夜、自らが誘導するであろうその情景を想像し、自慰行為に耽るのであった。
来るべき、”あの日”まで…。
本郷麻衣とは明らかに似て非なるイカレた眼で…。
-完ー
本作は拙著『ヒート・フルーツ』及び『NGなきワル』より、抜粋・編集した特別バージョンです!
「…いいか、静人。お前に仮に会っても、話す前にぶん殴るって。この前みたいな張り手なんかじゃないぞ。グーパンチでボコボコだ。…はー?それでもいいから会ってくれって?…よし、なら一つだけ誓え」
静人の執拗な泣き落としが延々10分に及び、麻衣はついに折れた。何度も一方的に電話を切ろうとした寸前で、”電話切らないで、もう一言だけ…”、そのたび、この静人のワンフレーズで訴えかけられ、麻衣はさらに熱くなっていったようだった。結果的に静人が粘り勝ったと言える。
その要因は、麻衣から自分へのボロクソな罵倒を全部吐き出せ、まずあきれ果てさせたこと。これがポイントだった。静人の徹底した自己嘲笑風の懇願ぶりに最初から”反応”してしまった為、麻衣にとっては突き放しどころを逃してしまったのかもしれない。
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「…今度会ったら、ホントに最後なのは言うまでもないが、絶対に電話も手紙も伝言も一切ダメ。要するに私は、あんたを抹消する。約束破ったらぶっ殺す!本気だぞ、私は。…何?私はその気になれば男の下半身も切り裂くくらいだからわかってるって?いい加減にしろ、このアホー!」
”ああ、疲れた…。ストーカーの気があるんじゃないか、あの男…”
結局麻衣は、最後の最後という約束で3日後、K市郊外の通称、高台広場で待ち合わせというアポイントに同意した。
...
「ハハハ…、麻衣の根負けか。その坊や、なかなかねばり腰だなあ」
「ダーリン、笑いごとじゃないわよ。あんなしつこいとは思わなかったわ。まあ、ついでにこの前撮った写真現像して渡してくるわ」
「でも、麻衣ともあろうものが、その坊主には妙に甘いって気はする。なんでなんだ?」
「よくわかんないんだ、それが。確かにキツイことは言うんだけど、どこか温情みたいなもんを発してる気は自分でもする。まあ、何となくだけど。ともかく、これが最後だ。今度舌の根も乾かないうちにひょこひょこお出ましならマジ、ぶっ殺すわ」
「ハハハ…、普通なら、やくざの旦那に殺させるわよとかになるのにな。俺を出すなんてこと、アタマにもないとこがお前らしいや。先日の夜もせっかく能勢がボディーガードで控えているのに、全部自分で片づけて出番も与えねえでよ。ヤツ、苦笑いしていたぜ」
本日の当番であった婚約者の倉橋優輔は、麻衣の話を笑いながら聞いていた。倉橋からすれば、今の麻衣にとって、静人ごときは単なる子供の”部外者”以外の捉え方はできなかったのだ。
所詮、この麻衣にかかっては取るに足らないコドモだと…。
...
「じゃあ、引き上げるか?今日は俺の部屋に泊りでいいんだろ?」
「ええ。お母さんには言ってあるから今日はそっちに泊まるわ。でも、一件電話したいんだ。いいかな?」
「ああ。例の先輩か?」
「そう。3日に一度は情報の確認をね。今日は夜いるって聞いてるからさ」
「なら、上にいるわ。終わったら呼んでくれ」
「オッケー!」
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麻衣が婚約者である愛しの撲殺男とそんな会話を交わしてる同時刻…。
中野静人は、麻衣を落とせたという充実感に浸っていた。故に、彼自身の中にあった二つの心がひとつに合わさっていたのだ。
”フフフ…、俺はやれた!どんな奴も出来得ないであろう、本郷麻衣の誘い役を全うできたんだ!”
歪んだ憧れと、屈折した愛情の沼に頭まで浸かった17歳の少年…。この夜から、もはや彼の心と脳裏には麻衣が自分たちに服をはぎ取られ、女として辱めを受ける彼女の姿がべったりとこびりつく。
そして毎夜、自らが誘導するであろうその情景を想像し、自慰行為に耽るのであった。
来るべき、”あの日”まで…。
本郷麻衣とは明らかに似て非なるイカレた眼で…。
-完ー
本作は拙著『ヒート・フルーツ』及び『NGなきワル』より、抜粋・編集した特別バージョンです!