硝煙の恋/悶ずる少年の死夏ー歪んだ憧憬模様ー
インセイン
インセイン
静人はもはや限界値に達しようとしていた。麻衣の”これ以上”は、自分なんかじゃ享受不可能だ。いい加減、気が狂ってしまう…。
撲殺男と恐れられる麻衣の婚約者は、死んだ相馬豹一のイカレ具合を最も強く継承した荒くれ者らしい。そんな狂った男とあの子が…。いや、巷では本郷麻衣こそ究極のイカレた凶暴女で、いずれ人を殺すんじゃないかって…。
さすがにここまで来ると、静人も麻衣の噂を心の奥では待ち望んでいた気持ちも萎えかけてきた。以前のように恐いもの見たさの感覚を伴っても…。正直、耳をふさいでいたい…。しかし、結果としてそれはできない。どうしても、受け入れてしまうのだ。
”辛い…、発狂しそうなくらい苦しい…”
それが静人の本心だったのかもしれない。
...
「えっ?相和会の”正式”なんですか、例の大柄の人…、本当に?」
「シッ…。それ、他に漏らしたりなんかしてみろ。間違いなく”連中”に消される。東京湾に浮かぶぜ、俺たち…」
静人の目からは、チビは完全にビビッていた。
「でも、大丈夫なんですか?武次郎さんらは関東側でしょう。その相和会の人とは、ヤバいでしょ、組に見つかったら」
「ああ、”かなり”しゃべっちまってるようで。オレ、もう外れてえよ。相和会はあの娘と撲殺男との婚約パーティーに関西の大物を大勢呼んで、大々的に気勢を上げるらしいし。縄張りに大打一派が侵攻したのを相和会は察知して、相和会は関西をバックに関東へ攻め込むとかってウワサも聞いてる…」
「僕にも入ってきますよ。いやでもいろいろ…。大打一派はさすがにカタギだがら、彼らが実際に先頭切って戦うのは麻衣ちゃんだとか…。あり得るんですか、それって?」
「武次郎さんは大打グループが張ってる、”ジャッカル・ニャン”に麻衣が乗り込んでくると読んでるそうだ。それに相和会のバッジさんが内部のことベラベラ口外してるから、それを関東本家に上げて、その材料で相和会を攻めたてる方針だとか…。もう情報が錯綜してて、何がなんだが…。でも一触即発ってのは俺たちにだって伝わってくるだろう?」
「そうですね。(イノシシ)先輩もいい加減、あのバッジとは距離置いた方がいいと思いますけど…」
そしてこのチビと静人のヒソヒソ話の多くは次々と現実のものとなって、彼らの耳目に触れることとなる。
”本郷麻衣、ジャッカル・ニャンに単身殴り込み!”
”相和会のチンピラ、死体で○○川浮かぶ!”
...
「…相和会のバッジが殺されたっての、間違いないぞ!さすがにヤツ(イノシシ)もヤバいって、大打グループから離れたがってるが、武次郎さんから裏切ったら殺すって(イノシシは)、はっきり宣告されたってよ。どうする、静人…?俺たちさあ、いつの間にか連中の掌に乗っかっちまってるんだ!」
「先輩、今更じたばたしてもしょうがないですよ。僕は麻衣ちゃんのネタが最も早くリアルに耳にでき、目にすることができて幸せなんです。ふふふ…、今度は麻衣ちゃん、何をやらかしてくれるのかな…」
ここにきて静人は、もはや半ば平常心がマヒしていた。
...
「…お前、”そのこと”武次郎さんに言ったのか?」
「いいえ」
「ヤバいって、そんな重要ごとすぐ伝えなきゃ」
「だって、あの人たち相和会のテリトリーから退散しちゃったじゃないですか。相和会とはあの人たちの”パートナー”も和解したし、意味ないでしょ。もう…」
「ダメだって‼後でお前が麻衣と接触しそうな状況だっだとバレたら、あのバッジみたいに消されるぞ!奴を殺ったの、あの北海道から来た雇われかも知れねえんだ。ついこの前まで、あの相和会のチンピラと仲良く話してたんだぞ!それなのに…。連中は血も涙もねえ。俺から正直に話すからな!」
イノシシは武次郎を怖れていた。それを静人も承知していたし、もうどうでもよかった。要は麻衣に近づける流れができた。それだけでいいと…。
”もしかしたら彼女に会えるかも。また話ができるかも…”、今の彼にはそれ以外、興味がなかった。
...
”やった!繋がったぞ!”
静人はガッツポーズをとって、心の中でそう叫んでいた。
その友人からは、兄が未成年のママさんがいるヒールズというスナックに最近通っている話を聞き及んでいた。そのママさんは目が鋭く、”豹子”という源氏名うを使っていると…。
静人は本郷麻衣が別名で相馬豹子と名乗っていることを周知していたので、”ヒールズのママさんは、麻衣ちゃんだ!”と確信していたのだ。そして姉にはその確信を告げた。数日後…、それは立証され、さらに姉の後輩の事案があっさり解決に至った。
それを知った日…、というよりも、その知らせが麻衣から電話で姉の元へ届くその直前、自分がその麻衣の第一声を受けたんだ。
わずか2か月程度ではあったが、彼女の声は懐かしかった。でも、その時は何も余分な話もせず、ただ姉に取り次いだだけだった。そう、なぜだか…。
静人はもはや限界値に達しようとしていた。麻衣の”これ以上”は、自分なんかじゃ享受不可能だ。いい加減、気が狂ってしまう…。
撲殺男と恐れられる麻衣の婚約者は、死んだ相馬豹一のイカレ具合を最も強く継承した荒くれ者らしい。そんな狂った男とあの子が…。いや、巷では本郷麻衣こそ究極のイカレた凶暴女で、いずれ人を殺すんじゃないかって…。
さすがにここまで来ると、静人も麻衣の噂を心の奥では待ち望んでいた気持ちも萎えかけてきた。以前のように恐いもの見たさの感覚を伴っても…。正直、耳をふさいでいたい…。しかし、結果としてそれはできない。どうしても、受け入れてしまうのだ。
”辛い…、発狂しそうなくらい苦しい…”
それが静人の本心だったのかもしれない。
...
「えっ?相和会の”正式”なんですか、例の大柄の人…、本当に?」
「シッ…。それ、他に漏らしたりなんかしてみろ。間違いなく”連中”に消される。東京湾に浮かぶぜ、俺たち…」
静人の目からは、チビは完全にビビッていた。
「でも、大丈夫なんですか?武次郎さんらは関東側でしょう。その相和会の人とは、ヤバいでしょ、組に見つかったら」
「ああ、”かなり”しゃべっちまってるようで。オレ、もう外れてえよ。相和会はあの娘と撲殺男との婚約パーティーに関西の大物を大勢呼んで、大々的に気勢を上げるらしいし。縄張りに大打一派が侵攻したのを相和会は察知して、相和会は関西をバックに関東へ攻め込むとかってウワサも聞いてる…」
「僕にも入ってきますよ。いやでもいろいろ…。大打一派はさすがにカタギだがら、彼らが実際に先頭切って戦うのは麻衣ちゃんだとか…。あり得るんですか、それって?」
「武次郎さんは大打グループが張ってる、”ジャッカル・ニャン”に麻衣が乗り込んでくると読んでるそうだ。それに相和会のバッジさんが内部のことベラベラ口外してるから、それを関東本家に上げて、その材料で相和会を攻めたてる方針だとか…。もう情報が錯綜してて、何がなんだが…。でも一触即発ってのは俺たちにだって伝わってくるだろう?」
「そうですね。(イノシシ)先輩もいい加減、あのバッジとは距離置いた方がいいと思いますけど…」
そしてこのチビと静人のヒソヒソ話の多くは次々と現実のものとなって、彼らの耳目に触れることとなる。
”本郷麻衣、ジャッカル・ニャンに単身殴り込み!”
”相和会のチンピラ、死体で○○川浮かぶ!”
...
「…相和会のバッジが殺されたっての、間違いないぞ!さすがにヤツ(イノシシ)もヤバいって、大打グループから離れたがってるが、武次郎さんから裏切ったら殺すって(イノシシは)、はっきり宣告されたってよ。どうする、静人…?俺たちさあ、いつの間にか連中の掌に乗っかっちまってるんだ!」
「先輩、今更じたばたしてもしょうがないですよ。僕は麻衣ちゃんのネタが最も早くリアルに耳にでき、目にすることができて幸せなんです。ふふふ…、今度は麻衣ちゃん、何をやらかしてくれるのかな…」
ここにきて静人は、もはや半ば平常心がマヒしていた。
...
「…お前、”そのこと”武次郎さんに言ったのか?」
「いいえ」
「ヤバいって、そんな重要ごとすぐ伝えなきゃ」
「だって、あの人たち相和会のテリトリーから退散しちゃったじゃないですか。相和会とはあの人たちの”パートナー”も和解したし、意味ないでしょ。もう…」
「ダメだって‼後でお前が麻衣と接触しそうな状況だっだとバレたら、あのバッジみたいに消されるぞ!奴を殺ったの、あの北海道から来た雇われかも知れねえんだ。ついこの前まで、あの相和会のチンピラと仲良く話してたんだぞ!それなのに…。連中は血も涙もねえ。俺から正直に話すからな!」
イノシシは武次郎を怖れていた。それを静人も承知していたし、もうどうでもよかった。要は麻衣に近づける流れができた。それだけでいいと…。
”もしかしたら彼女に会えるかも。また話ができるかも…”、今の彼にはそれ以外、興味がなかった。
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”やった!繋がったぞ!”
静人はガッツポーズをとって、心の中でそう叫んでいた。
その友人からは、兄が未成年のママさんがいるヒールズというスナックに最近通っている話を聞き及んでいた。そのママさんは目が鋭く、”豹子”という源氏名うを使っていると…。
静人は本郷麻衣が別名で相馬豹子と名乗っていることを周知していたので、”ヒールズのママさんは、麻衣ちゃんだ!”と確信していたのだ。そして姉にはその確信を告げた。数日後…、それは立証され、さらに姉の後輩の事案があっさり解決に至った。
それを知った日…、というよりも、その知らせが麻衣から電話で姉の元へ届くその直前、自分がその麻衣の第一声を受けたんだ。
わずか2か月程度ではあったが、彼女の声は懐かしかった。でも、その時は何も余分な話もせず、ただ姉に取り次いだだけだった。そう、なぜだか…。