硝煙の恋/悶ずる少年の死夏ー歪んだ憧憬模様ー
再会
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確かに咄嗟だったこともあり、勇気が出なかった。それはある。しかし…。
彼女とはちゃんと話ができる。今は単なる”あの時はどうも”程度の挨拶などたいした意味がない。あらためて麻衣ちゃんと会ってから、じっくり話をすればいい…。瞬間的にそんな判断に至ったようだ。
...
「そうですか、大打は都内のどこかに…」
「ああ、今のところ正確な場所までは掴めていないが、三田村さんの情報もこっちと重なってるしな。少なくとも、本拠は都県境以外ってことになるだろうが」
麻衣は静人と会う日の朝、相和会の大幹部、剣崎満也から電話で報告を受けた。
”奴らはそう遠くない場所で目を光らせている。そう思わないと…”
麻衣はそう肝に銘じていた。
「今日会うのは、確か例のファミレスん時の”登場人物”だったな?」
「はい。取っ組み合った男以外の17歳の子です。その彼、あの時は私のこと、ほとんど知らないでああいった出来事に立ち会っちゃった訳ですが、あれからいろんなことが分かったと思うんですよね。私のことは…」
「お前、何を話すんだ?そいつと会って」
「…ひと通りは説明する気でいます。無論、差し使えない範囲にとどめますが…」
「説明か…」
今では相和会の屋台骨を背負う、組織のナンバー2である剣崎が何を言いたいのか…、麻衣には理解できていた。
...
「あの現場で警察が来た時、彼だけは他の二人とは私を見る目が違っていたんです。どうせ高校も途中で辞めたハンパもんだろうしってことで、私のシナリオに引き込んじゃったんですが、彼の目…、ショックを受けていましたよ。その後の私のこともいろいろ耳にして、まだ尾を引いてるでしょうし。だから、私のことはもう忘れさせてやりたいんです」
「わかった。だが、油断はするな。くどいようだが…」
「了解です」
「…それと、お前のそういう気持ち、相手に受け入れられるとは限らないぞ。お前はその辺の同年代のガキとは感性が違うんだ。接する相手にお前レベルを望むのは土台ムリさ。それは踏まえといたほうがいい」
剣崎はこれ以上言わなかった。だが、麻衣の発する妖しい輝きを最も知りえている男のその言葉が、麻衣への懸念を伴った忠告であることは、他ならぬ麻衣自身には伝わっていた。
...
午後2時5分前…、展望公園に着くと、静人はすでにいた。
「よう、早かったね」
「ああ、こんにちわ。ちょっと早く来過ぎちゃって…」
静人はそう言って頭をかいていた。
「まず、お姉さんからは聞いてると思うけど、こっちへの依頼ごとは解決済だよ。あんたが私につないだことは功を奏した。そう理解して」
「うん、今回は姉の頼みを叶えてくれてありがとう。僕からもお礼を言うよ」
静人はさわやかな笑顔を見せながら、ちょこんと頭を垂れた。麻衣は思わずクスッと笑いをこぼしていた。
二人は、一番眺めの良い展望スペースにあるベンチに並んで腰かけた。平日の日中ということで、ほぼ貸切状態だった。
...
「…あのさ、最初に謝るわ。8月31日のあれね、私が故意に仕掛けた”芝居”だったんだよ。最初から警察沙汰を起こすつもりだったってこと。まあ、今はあんたも周知してるだろうけど。とにかく、あんたらを巻き込んだのは事実だ。迷惑かけてゴメン」
麻衣は静人の目を見ながらそう言って頭を下げた。
「ああ…、あの、いいんだよ、それは。…でも嬉しい。そう言ってくれる気持ちが…」
「びっくりしただろうね、さぞや…。あんたの私を見る目、もう一人のチビとは違ってたもんな。あのイノシシはそれ以前の問題だったし(苦笑)」
その目とは麻衣のことを心配し、気遣う気持ち…。麻衣は騒ぎを起こし、警察に連れられる自分に注がれる好奇の視線の中にあって、静人の眼差しだけが”別物”であることを実感しながらパトカーに乗った。
ただし、”迷惑をかけた私なんかにそんな目、勘弁だって…”、これがその時の麻衣の胸中ではあったが…。
「それって…、じゃあ僕だけに…」
「うん。悪いが、学校も行かないろくでもない連中だから利用してもいいだろうってアタマだった。でさ…、私をファミレスでウォッチしてるの知ってて誘いかけたんだよ。その私が警察に連れられる時、あんな目で見らちゃったんじゃね…。コイツにはすまないことしちゃったなって。だからさ、今回あんたのお姉さんと会ってさ、この機会にすっきりさせようと思った訳でさ。はは…」
「君って優しい心を持ってるんだね」
「いや、スジの問題だから。私の気持ち上の。その辺は誤解しないで」
麻衣はきっぱりと言い放った。事実、これは麻衣の正直な思いであり考えであった。
「…わかった」
静人のポロリとこぼれるように出た一言を聞いた後、麻衣は”さあ、行くか”と決心し、鋭い視線を静人に向けて切り出した。
「いいかい、静人。私のことなんかさ、今日限りで忘れるんだ」
「…」
確かに咄嗟だったこともあり、勇気が出なかった。それはある。しかし…。
彼女とはちゃんと話ができる。今は単なる”あの時はどうも”程度の挨拶などたいした意味がない。あらためて麻衣ちゃんと会ってから、じっくり話をすればいい…。瞬間的にそんな判断に至ったようだ。
...
「そうですか、大打は都内のどこかに…」
「ああ、今のところ正確な場所までは掴めていないが、三田村さんの情報もこっちと重なってるしな。少なくとも、本拠は都県境以外ってことになるだろうが」
麻衣は静人と会う日の朝、相和会の大幹部、剣崎満也から電話で報告を受けた。
”奴らはそう遠くない場所で目を光らせている。そう思わないと…”
麻衣はそう肝に銘じていた。
「今日会うのは、確か例のファミレスん時の”登場人物”だったな?」
「はい。取っ組み合った男以外の17歳の子です。その彼、あの時は私のこと、ほとんど知らないでああいった出来事に立ち会っちゃった訳ですが、あれからいろんなことが分かったと思うんですよね。私のことは…」
「お前、何を話すんだ?そいつと会って」
「…ひと通りは説明する気でいます。無論、差し使えない範囲にとどめますが…」
「説明か…」
今では相和会の屋台骨を背負う、組織のナンバー2である剣崎が何を言いたいのか…、麻衣には理解できていた。
...
「あの現場で警察が来た時、彼だけは他の二人とは私を見る目が違っていたんです。どうせ高校も途中で辞めたハンパもんだろうしってことで、私のシナリオに引き込んじゃったんですが、彼の目…、ショックを受けていましたよ。その後の私のこともいろいろ耳にして、まだ尾を引いてるでしょうし。だから、私のことはもう忘れさせてやりたいんです」
「わかった。だが、油断はするな。くどいようだが…」
「了解です」
「…それと、お前のそういう気持ち、相手に受け入れられるとは限らないぞ。お前はその辺の同年代のガキとは感性が違うんだ。接する相手にお前レベルを望むのは土台ムリさ。それは踏まえといたほうがいい」
剣崎はこれ以上言わなかった。だが、麻衣の発する妖しい輝きを最も知りえている男のその言葉が、麻衣への懸念を伴った忠告であることは、他ならぬ麻衣自身には伝わっていた。
...
午後2時5分前…、展望公園に着くと、静人はすでにいた。
「よう、早かったね」
「ああ、こんにちわ。ちょっと早く来過ぎちゃって…」
静人はそう言って頭をかいていた。
「まず、お姉さんからは聞いてると思うけど、こっちへの依頼ごとは解決済だよ。あんたが私につないだことは功を奏した。そう理解して」
「うん、今回は姉の頼みを叶えてくれてありがとう。僕からもお礼を言うよ」
静人はさわやかな笑顔を見せながら、ちょこんと頭を垂れた。麻衣は思わずクスッと笑いをこぼしていた。
二人は、一番眺めの良い展望スペースにあるベンチに並んで腰かけた。平日の日中ということで、ほぼ貸切状態だった。
...
「…あのさ、最初に謝るわ。8月31日のあれね、私が故意に仕掛けた”芝居”だったんだよ。最初から警察沙汰を起こすつもりだったってこと。まあ、今はあんたも周知してるだろうけど。とにかく、あんたらを巻き込んだのは事実だ。迷惑かけてゴメン」
麻衣は静人の目を見ながらそう言って頭を下げた。
「ああ…、あの、いいんだよ、それは。…でも嬉しい。そう言ってくれる気持ちが…」
「びっくりしただろうね、さぞや…。あんたの私を見る目、もう一人のチビとは違ってたもんな。あのイノシシはそれ以前の問題だったし(苦笑)」
その目とは麻衣のことを心配し、気遣う気持ち…。麻衣は騒ぎを起こし、警察に連れられる自分に注がれる好奇の視線の中にあって、静人の眼差しだけが”別物”であることを実感しながらパトカーに乗った。
ただし、”迷惑をかけた私なんかにそんな目、勘弁だって…”、これがその時の麻衣の胸中ではあったが…。
「それって…、じゃあ僕だけに…」
「うん。悪いが、学校も行かないろくでもない連中だから利用してもいいだろうってアタマだった。でさ…、私をファミレスでウォッチしてるの知ってて誘いかけたんだよ。その私が警察に連れられる時、あんな目で見らちゃったんじゃね…。コイツにはすまないことしちゃったなって。だからさ、今回あんたのお姉さんと会ってさ、この機会にすっきりさせようと思った訳でさ。はは…」
「君って優しい心を持ってるんだね」
「いや、スジの問題だから。私の気持ち上の。その辺は誤解しないで」
麻衣はきっぱりと言い放った。事実、これは麻衣の正直な思いであり考えであった。
「…わかった」
静人のポロリとこぼれるように出た一言を聞いた後、麻衣は”さあ、行くか”と決心し、鋭い視線を静人に向けて切り出した。
「いいかい、静人。私のことなんかさ、今日限りで忘れるんだ」
「…」