先輩が愛してくれた本当のわたし
レッスンがすべて終了し後片付けも終え、着替えを済ませて更衣室から出てきた航太はリカに待ち伏せされていて目をぱちくりする。
「どうした?」
「小野先輩にお話があって」
「はっ! まさか愛の告白!」
「……何でそうなるんですか。ありえないです」
「ありえないとか、そんな冷たいこと言うなよ~」
航太は「冗談なのに」とヘラっと笑う。
「あの、今日はありがとうございました」
「ん? 俺が代わってほしかっただけだからさ~。代わってくれてありがとね。早く帰ってよく寝ろよ~」
手をひらひらと振って帰ろうとする航太をリカは無理やり引き留める。
自分でもなぜ航太に食いついているのかわからない。
ただ、彼の本心が見えなくて、それを見てみたいと思ってしまったのかもしれない。
「……何でわかったんですか?体調悪いって」
「体調悪かったんだ?」
「うそ、知ってたくせに」
「……大事な後輩を無理させるわけにはいかないだろ?今度からは遠慮せずにちゃんと自分から言えよ?」
航太はニカッと笑ってリカの頭を優しく撫でる。
まるでスイミングスクールの子供たちにするみたいに。
「……子ども扱いしないでください」
「あーはいはい、可愛い可愛い」
「だからっ! ……今度、お礼します」
「え? 気にしなくていいってば」
「気にするんです。私、小野先輩と違って真面目だから」
「おおっ、リカちゃんなんて酷いことを言うんだ。そんな子に育てた覚えはないぞー。俺はいつだって大真面目じゃないか」
「その言動! ぜんっぜん真面目に見えません!」
「あはは! いつものリカちゃんだ。元気になってよかったなー」
航太と話をしていると何も前に進まない気がする。
というより、はぐらかされてお礼もさせてもらえないのではないかと思った。
だから、航太の意見は聞かない。
リカは命令口調で告げた。
「今度、ご飯行きましょう。おごりますから。絶対です」
「お? お、おう?」
勢いに押されて航太はタジタジとなりながらも頷いた。
それを見てようやくリカは航太を解放し「お疲れさまでした」と足早に帰っていったのだった。