先輩が愛してくれた本当のわたし
後姿を見送りながら、航太は思わず顔を覆う。
なんだか妙に気恥しい。
「航太、どうした? こんなところに突っ立って」
後から更衣室から出てきた同期の杏介が不思議そうに声をかける。
「いや……リカちゃんって……何であんなに可愛いんだと思う?」
「なに? もしかして惚気? 航太って、ほんと森下さんのこと好きだよな」
「……バレバレ?」
「バレバレだろ? まあ、本人は気付いてなさそうだけど?」
杏介はクスクスと笑う。
今まで航太がどんなにアプローチをかけても、リカはスルーしていた。
まあ、ひとえに、航太のアプローチが冗談めかしていてわかりづらいからに他ならないのだが。
「今が可愛すぎて、関係が壊れるのが怖いんだよ」
「……意外と繊細なんだな。知らなかった」
「ぐわー! 杏介、真面目な顔してそういうこと言うな。マジで」
「ははっ。航太は優しいんだから、森下さんも安心してるんだろ?」
「くそ、イケメンがイケメン発言するなっ」
「……何言ってんだか」
杏介はやれやれと笑い、航太は真っ赤な顔をしてプイっとむくれる。
だが、先輩と後輩という関係が少しだけ進むような、そんな予感が過って航太は年甲斐もなく胸を躍らせた。