先輩が愛してくれた本当のわたし
リカと航太が同じシフト勤務の日、「先輩、今日ご飯行きません?」というリカからの誘いに二つ返事で首を縦に振る。

「リカちゃんとご飯楽しみだなあ」

「何食べますかねー?」

と、それぞれ考えながら仕事をしていたのだが。

事務室で仕事をしていたリカの元へ、受付のアルバイトの子が転がり込んでくる。

「森下さん、すみません。お客様が、あのっ……」

泣き出しそうな顔で訴えてくるので、リカは何事かと受付へ顔を出す。
たまに変なことを言う客や無理難題を押しつける客がいるので、店として対処マニュアルはあるのだが、経験の乏しいアルバイトではとっさに対応が難しいこともある。

受付の椅子には、男性と女性が横柄な態度で座っていた。カウンターの上には一枚の退会届が乱雑に置いてある。

推測するに、女性が退会するのに揉めて、知り合いか恋人かはたまた夫か、強気な男性を連れてきたといった様子だ。

「お待たせいたしました、お客様、どうされましたか?」

「だからぁ、今月退会したいのに何で来月分の会費まで請求されるんだよ?おかしいだろ?」

「当店は締日が十日になっておりますので、その関係で一ヶ月ズレたように思われるのではないでしょうか?」

「はあ?だいたい、ここって電話も繋がらねーし、受付もいたりいなかったりするからそんなタイミングよく退会できるわけねーだろ。お前の店がおかしいんじゃねーの?」

男性の剣幕はなかなかに厳しい。
学生アルバイトが社員に助けを求めるわけだ。
代わりに対応に出たリカとて、上手くいなせるかわからず背中に冷たい汗が流れる。

< 14 / 69 >

この作品をシェア

pagetop