先輩が愛してくれた本当のわたし
受付が騒がしく異常な状態に、遅れて航太と杏介も気づいた。
リカの青ざめている顔を見て航太はすぐに駆け寄り自分の背に匿うようにする。
杏介も厳しい顔つきでリカの前に出る。

「そのまま退会してもらって構わないですよ。そのように手続き取りますので。ああ、もちろん月会費も要りません。お疲れ様でした」

畳みかけるように航太が言うと、淳志はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。

「どうするー? 金払わなくていいってよ」

「えー? 本当? じゃあそれでいいわ」

淳志と女性は椅子から立ち上がると、その椅子を片すことなくヘラヘラ笑いながら出て行った。
彼らの行方をしばらく追っていた航太たちも、完全にいなくなってからほっと肩の力を抜く。

「リカちゃん大丈夫――」

振り向いた航太は言葉を失う。
リカの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちたからだ。

「ごめん、早く気づかなくて。嫌な思いしたよな」

「……いえ、……すみません」

リカは航太を見る。
先ほどの淳志の言葉をどれくらい聞いていたのだろうか。
リカに刺さる視線がどれもリカを軽蔑するような、そんな視線に思えてならない。

けれどリカの頭にのせられる航太のあったかくて優しい大きな手。

「気にするなよ。たまたま変な客に当たったってだけなんだから。どうせ当たるなら宝くじに当たりたいよな」

「そうだよ、森下さん。今度からああいう客は俺とか航太とか、男性社員に任せておけばいいよ」

「森下さん、すみませんでした。私の代わりに対応してもらって……」

確かに嫌な思いはした。
彼らが励ましてくれることとリカの抱える感情にズレがあったが、それでもまわりの優しさが今はありがたかった。
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