先輩が愛してくれた本当のわたし
その後平静を取り戻した店内だったが、リカの気分はまったく晴れなかった。
淳志を思い出してはため息が漏れる。

あの煙草の臭いを嗅ぐだけで吐き気がする。
淳志にではない。自分の愚かさを思い出すからだ。

「リカちゃん、今日のご飯やめとく?」

航太が気を遣ってくれているのがわかるので、リカは極力笑顔で否定する。

「大丈夫です。むしろ食べて忘れたいかな。やけ食い」

「んじゃあさ、飲みにでも行くか」

「いいですね。ヤケ酒しましょう」

「飲み過ぎるなよ~」

「そっちこそ」

早番だった二人は車通勤のため一旦帰宅し、駅前の居酒屋で落ち合った。
ザワザワとした店内は半個室の造りになっていて、ある程度のプライベートは守られる。

「んじゃ、今日もお疲れ~」

「お疲れ様でした」

ビールで乾杯すると、リカはグラスを一気に飲み干した。
空きっ腹に染み渡り食欲を増強させる。

「好きなの頼んでいいですか?」

「もちろん」

リカは席に据え付けられているタブレットで真剣にメニューを選んでいく。
あまりにも真剣な表情をするものだから、航太はくすりと笑う。

「なんですか?」

「いや、リカちゃんっていつでも真面目なんだなぁと、思ってさ」

「小野先輩はいつもふざけてますよね」

「コノヤロウ、俺をなんだと思ってるんだ」

「ちょっとチャラい先輩?」

「ちゃ、チャラいって……はぁ」

航太はあからさまに肩を落とす。
「でも」と、リカは付け足すように一呼吸置く。

「……意外と気遣いのできる人なんだなって、最近気づきました」

「え……」

「今日はありがとうございます。あと、この前も担当代わってくれて……助かりました」

「そっか。リカちゃんの役に立てたならよかったよ」

ニカッと航太は屈託なく笑う。
そうこうしているうちにリカの頼んだ料理が次々と運ばれてきて、二人はたわいもない話で盛り上がりながら食を進めた。
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