先輩が愛してくれた本当のわたし
「そ、過程。例えばさ――」

航太はリカの手を取る。
さわさわと優しい手つきで撫でたり指を絡めたり、 その動きを見ているだけでリカの胸はドキンと揺れる。

航太は右手はリカの手を握ったまま、左手でリカの
髪に指を差し込む。
そして柔らかい手つきでさらりと後ろへ梳いた。
そのまま何度か頭を撫でられる。

リカはまるで時間が止まったかのようにされるがまま、身動きができなかった。
男性にこんなことをされたのは初めてだ。
ドキドキと鼓動が速くなるのがわかる。

航太に触れられたところが熱い。

撫でていた手は流れるように耳たぶに触れていき、 そしてリカの頬を包んだ。
やわやわと頬を撫でられるその動きが気持ちいい。

リカは無意識に航太の手にコテンと頬を預けるように傾いていた。
視線が航太と絡まると目がそらせなくなる。

「リカちゃん可愛い」

航太が眉を下げながら微笑む。
その顔は、いつも知っている航太よりも何倍も優しさに溢れていてぎゅんぎゅんと胸をしめつけた。

「……やばい、キス、したくなっちゃったな。例えばの話だったんだけど、リカちゃんがそんな顔するから」

その言葉にすら体が反応するように熱くなる。
そんな顔とはどんな顔なのかと思わなくもないが、それを言うなら航太だってそうなのではないかとリカは思う。
だってリカをこんな気持ちにさせるのだから――。

「し、しても、 いいよ」

「……ほんとに?」

「わたしも、し、したい……かも」

その言葉に嘘偽りなどなくて、逆に戸惑う。
人はみな嘘をついて生きているのではないのか。
そうじゃない自分がいまここにいる。
そんな風に自分の感情が揺れ動くだなんて思ってもみなかった。
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