先輩が愛してくれた本当のわたし
「せんぱ、い。わたし……あの……」

リカが高揚した顔で訴えると航太はぐっと息をのむ。

潤んだ瞳、ピンクに染まった頬、艶っぽくぷるんとした唇。
航太のキスでリカがこんなに淫らになるなんて、胸をわしづかみされたような感覚に震えた。

リカが望んでいるならそれに応えるか?
ここまでディープなキスをしておいて、今さらなにをと思わなくもないが、航太の心は揺れる。

航太とてリカとのそれを望んではいるけれど、まずはリカの心を大切にしたいと思うのだ。
それは理想でしかなく、この状態では航太の理性が吹き飛ぶ一歩手前である。

「……我慢できなくなっちゃった?」

そんな風に聞くのはずるいのかもしれない。
けれどリカの言葉で確認したかった。
リカが本当に望んでいるのかどうか、もうこれ以上彼女が後悔しないように。

「うえっ、あ、あの……」

ピンクだった頬がまるで紅葉のように色づいていく。

航太を見つめながら恥ずかしがって頬を染めるリカは航太の限界を超えるほどに可愛らしく愛らしい。

指を絡めながらもう一度キスを交わした。
神経が研ぎ澄まされて、触れられるたびに鼓動が速くなる。

――と、

ピピピッピピピッ――

突然鳴り出したアラームに、リカも航太もハッと正気を取り戻したかのように我に返った。

「ごめんごめん、アラームセットしてたんだった」

「ああ、いえ……びっくりした」

「だよねー。でもさ、俺たちそろそろ準備しないと出勤時間」

「わあっ! 仕事のこと忘れてたっ!」

「忘れておきたかったけど、ほら、俺たち真面目じゃん?」

「ですね、間違いない」

二人、顔を見合わせると思わず笑ってしまう。

「一回家に帰るだろ? 朝メシだけ食べていきなよ。コーヒーとトーストしかないけど」

「じゃあ、遠慮なく。ありがとうございます」

リカが身支度を整えている間に航太は手際よくコーヒーを淹れる。
お互いが何もなかったかのように一日が始まった。
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