先輩が愛してくれた本当のわたし
仕事が終わり帰宅したリカは、「はあああー」と深いため息を落とした。
長い一日だったように思う。

(……小野先輩のせいだ)

急に気が抜けたようにベッドに身を沈めた。
今日は自分の布団、いつもの感触。それなのに今朝航太のベッドで目を覚ましたあの感触が過る。

航太と指を絡めて、髪を梳かれ頬を撫でられ……。

思い出すと急にボンッと顔が赤くなり、リカは自分の体の火照りに身悶えた。

あんなにドキドキしたのは初めてだ。
おかしい。
自分がおかしい。

胸をぎゅっとつかまれる感覚。
体の奥がぎゅんと疼く感覚。

(なんなの、あれは――)

――我慢できなくなっちゃった?

あのときリカは答えられなかった。
けれど答えようともしていた。
本当はその先に何があるのか、知りたかったのだ。
リカの気持ちをこんなにも昂ぶらせるものは何なのか、知りたい。

航太に抱かれたら、それがわかるのかもしれないと思った。
思わぬ形でそれは中断してしまったけれど。

(先輩、本気だったのかな?)

何食わぬ顔で朝食をとってから別れ、仕事でも顔を付き合わせたが普段となにも変わらなかった。
意識してしまってこんなにも悶々と考えているのは自分だけなのだろうか。

リカはスマホを手に取る。
航太の連絡先を表示させてはため息が漏れた。

と、突然スマホが震え出し、リカは「うわああっ」と取り乱す。
画面に表示された名前を確認して、リカは「はー」と脱力した。

「もしもーし、奈月、どうしたの?」

電話の相手は大学のときの友人である奈月だ。

『リカ、明日のことなんだけど……』

「明日?」

『もしかして忘れたとか言わせないわよ?』

「……なんだっけ?」

リカはカレンダーを見る。
明日は土曜日。仕事は早番だ。

『ちょっと! 本気で忘れてるじゃん。街コンだよ、街コン!』

「街コン……? あっ!」

『電話してよかったわー。危うく一人で参加するところだったじゃないの』

「ごめんごめん、最近忙しくて……」

などと言い訳してみるも、忙しかったわけではない。
頭の中が航太のことでいっぱいになって、他のことはスコンと抜けてしまっただけなのだ。
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