先輩が愛してくれた本当のわたし
航太と杏介は同期で、入社当初から仲がいい。お互い自分のことを明け透けに話せるほどに打ち解けている仲だ。

仕事帰りに寄った焼肉屋で、二人はウーロン茶で乾杯をした。お互い車通勤で一旦家に帰るのが面倒だったため、アルコールはなしになった。

「今日は食うぞー!」

「焼肉なんて久しぶりだな。アルコールなしでよかったのか?」

「最近飲み過ぎたから今日は白飯がいい」

そう言って航太は早速大盛り白米の上にハラミをのせて大口で頬張る。脂がじゅわっとまろやかに溶けて、口の中を幸せにした。

「……少しは元気になったか?」

「いや、全然。でも肉食ってるときは元気だ。美味い」

「なんだそれ」

杏介は苦笑しながらも網の上に肉を追加する。脂がしたたって炭火に落ち、ジュッといい音がした。

「杏介はさぁ、例の彼女と上手くいってる?」

「ん? うーん、微妙かも」

「なんだよそれ、上手くいけよ」

「そりゃ上手くいきたいよ。でも自分を好きになってもらうのって難しい」

「……わかりみが深い」

航太は眉間にしわを寄せる。
杏介も曖昧に微笑んだ。

杏介は好きな彼女に告白をしてフラれた。けれどその返事は曖昧で、ズルズルとまるで付き合っているかのような関係が続いている。どうにか口説いてみせようと必死だ。

「航太の悩みは森下さん?」

「告白してフラれた」

「えっ?」

「……ような気がする」

「なんだよ、気がするって。曖昧だな」

「お前にいわれたくねー」

「ぐっ、確かに」

航太ははあっとため息ひとつ、一旦箸を置く。
網の上で焼かれている肉が小さくパチンとはぜた。杏介はそれをトングでひっくり返す。航太は頬杖をつきながらそれをぼんやりとみつめた。

「リカちゃんに告白してさ、その場では返事もらえなかったけどわりといい感じかなって思ってたんだよ。だけど昨日リカちゃん街コンに行くって言うからショックでさー」

「街コンって、合コンのこと?」

「スカート履いてめっっっちゃ可愛かったんだよ」

落ち込んでいたかと思えばデレっと頬が緩む航太に杏介は眉間を押さえながら「ショックなのか惚気なのかどっちだよ」と呆れた笑いをこぼした。
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