先輩が愛してくれた本当のわたし


春の日差しは暖かく、風が吹いてももう寒さは感じない。
リカは淡いパープルのワンピースに七分袖のカーディガンを羽織り鏡の前で何度も自分の姿を確認した。

航太と一緒にビンゴ大会の景品を買いに行くだけなのに、なんとも気合いが入ってしまう。

(先輩、可愛いって思ってくれるかな?)

などと考えてしまうあたり、自分でも気付かないうちにそうとう楽しみにしていたようだ。

しかも航太が車で迎えに来てくれるという。
家まで迎えに来てもらうのも初めての経験。過去に付き合った彼氏はそんなことをしてくれなかった。

まるで恋人のようなシチュエーションにリカは胸がきゅんとなる。

(今日は……今日こそは……)

リカは大きく深呼吸する。
リカの中でどんどん大きくなる航太への気持ち。
ずっとはぐらかしていた答えを、今日こそ航太に伝えようと考えていた。

(好きですって言うだけ……。でもいつ言えば……?)

いろいろとシミュレーションをしてみるものの、どれもしっくりこない。

(やっぱり最後に言うべきかな? いや、でも緊張するし。ご飯食べながら何気なく? うーん、なんかこう、いいムードになったとき?……いいムードってなんだ?)

ごちゃごちゃと頭の中が大変なことになっていると、リカの目の前に一台の車がハザードを出して停まる。
助手席側の窓が開くと「お待たせリカちゃん」と航太が満面の笑みでリカに挨拶をした。

フードの付いたカジュアルジャケットを羽織った私服の航太は新鮮だ。航太も例に漏れずジャージやハーフパンツで出勤することが多いからだ。

「……先輩かっこいい」

「えっ?」

思わず呟いてしまったリカと、聞き間違いではないだろうかと瞬きをする航太。

「はっ! いいえ、今日はよろしくお願いします」

「お、おう?」

おずおずと助手席に乗り込むと緩やかに車は発進した。
お互いに先ほどのリカの発言はなかったものとして別の話題を振る。そうしないと緊張でどうにかなってしまいそうだったからだ。

「そういえばリカちゃん、街コンどうだった?」

「えっ?」

「いい人いたのか~?」

街コンに行くなと泣きそうな顔をしていた航太が思い出されるのに、今の航太は穏やかな顔をしている。あんなに必死だったのがまるで嘘のように。
リカの胸はズキリと痛んだ。
< 51 / 69 >

この作品をシェア

pagetop