先輩が愛してくれた本当のわたし
「……別にいい人なんていませんけど」
「そっか、残念だったな」
「……そうですね」
航太の口調からは感情が読み取れず、リカは思わずムスッとした返事になってしまう。
今日こそ航太に気持ちを伝えようと思っていたのに、急にしゅるしゅるとしぼんでいった。
――いつまでも待っててくれると思っちゃだめよ。人の心は移ろいやすいって言うでしょ
奈月の言葉は本当だったのだ。
あの時忠告してくれたのに、リカがズルズルと答えを先延ばしにしたのがいけなかった。
人知れず傷ついたリカだったが、ため息を落とすわけにもいかずまっすぐに前を見る。
デートだなんて意気込んでしまった自分が恥ずかしく惨めな気持ちになった。
対照的に、航太の運転は泣きたくなるほど丁寧で優しい。いい気持ちで揺られながらも、もしもここに自分以外の女性が乗ったならと考えるととたんに胸が苦しくなる。耐えられなくなる。
それなのに――。
感情とは裏腹に言葉が出てきてしまう。
「先輩は街コンとか合コン行ったりしないんですか?」
「うーん、あんまり興味ない」
「いい出会いあるかもですよ?」
「そうなのかなぁ?」
「……そうですよ」
本当は否定して欲しかったのかもしれない。
「俺が好きなのはリカちゃんだけ」だと、もう一度言って欲しかった。安心が欲しかった。
自分のことは棚に上げて、航太の気持ちを確認したかった。
(……そんなのズルいよね)
リカとて頭ではわかっているのだ。
自分がなんとかしなくてはいけないことを。
だけどいつもみたいに、おちゃらけた感じで笑い飛ばして欲しかった。
(……先輩のバカ)
考えればぐるぐると堂々巡りだ。
気づけばあっという間に目的地のショッピングモールに着いた。