先輩が愛してくれた本当のわたし
さっそくおもちゃコーナーへ行って小学生が好きそうなものを物色する。

「参加人数、三十人だっけ? 結構な荷物になるなぁ」

「ビンゴ大会と言いつつ全員分の景品がいりますしね。多少の優劣は付けなきゃだけど……」

二人はうむむと悩みながらあれこれ手に取る。
最近の流行りは何だだの、子供の頃に流行った懐かしいおもちゃを見つけては思い出話をしたりだの、先ほどまで沈んでいた気持ちが嘘のように盛り上がる。

(やっぱり先輩といると楽しい)

自然と笑みがこぼれる。
その笑みに応えるように、航太もニカッと爽やかな笑顔を返す。

予算を考えながらカートに商品を入れていくとあっという間に山積みになり、まるでサンタクロースにでもなったかのような気持ちになった。

お会計を済ませて車に詰め込む作業はちょっとした重労働で、航太が気を遣ってか率先して動いてくれているのがわかる。

リカはワンピースを着てきてしまったことを後悔した。やはりいつものようにジャージか動きやすいTシャツにすればよかったと内心ため息をつく。

それに、デートだなんて浮かれていた自分が恥ずかしい。

「先輩すみません、私の仕事なのにいろいろやってもらって――」

「いいよ。俺はリカちゃんとデートできて楽しいし」

「デートって、おもちゃ選んでただけですよ?」

「何をしててもいいんだよ。俺はリカちゃんと過ごせることが何より嬉しい」

航太は爽やかに笑い、「それから」と口元を覆って視線を控えめに逸らす。

「……今日のリカちゃんめちゃくちゃ可愛い。もう、やばい。俺、浮かれてる」

はにかんだ航太の耳はうっすらと赤くなっている気がして、リカは何かに撃ち抜かれたかのように体に衝撃が走った。速くなる鼓動を止められない。
「可愛い」と言われることがこんなにも嬉しく心を震わせることだなんて思わなかった。

そして――、欲しかった言葉がもらえた気がした。

「……すきです」

ポロリと口から伝い出た。
リカの意思とは関係なく、それは自然と。

航太は口元を覆ったままリカを見る。
信じられないといった顔だ。

リカはもう一度口を開く。
今度は自分の意思で、はっきりと。

「私、小野先輩のこと好きです」

ふわっと春の風が暖かく吹き抜けリカのスカートを揺らした。
ポカポカと照らす日差しは柔らかく、時おり小鳥のさえずりさえも耳に届く。
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