先輩が愛してくれた本当のわたし
「……えっ、ええええー!――っつ!」
一歩後退りした航太は自分の車にゴツンと後頭部をぶつけた。そしてなぜか顔を両手で覆って「うわああ」と声を上げる。
「ちょ、え、先輩? やだ、気でもふれた? 何かに取り憑かれた?」
リカが心配して手を伸ばせば、その手をぐっと引き寄せられて「わわっ」と前のめりになる。
「むぐっ」
体がしっかりと抱えられ何事かと思った。
航太がリカを力強く、――けれどふわりと優しく抱きしめている。
「嬉しい! 嬉しい! 俺の彼女ってことでいいんだよね?」
「う、うん」
「リカちゃんありがとう!」
そんな全身で嬉しさを表現されるとは思わず些か面食らう。リカの耳には「嬉しい」と何度も航太の声が届いてだんだんとむず痒くなってきた。
「……やっぱり先輩、子供みたいですね」
呟けば、「嬉しいから仕方ない」と返ってくる。その声色はとんでもなく甘やかだ。嬉しいのはリカの方こそなのに。
こんなにも「好き」を表現してくれる人を初めて見た。それはリカの心をまたひとつ震わせる。
抱きしめられたまま航太の胸に耳をあてれば、トクントクンと規則的な音が響いてリカは安心する。そんな風に音を聞いたのも初めてだった。
「……先輩、生きてますね」
「生きてたか、そりゃよかった。天にも昇る気持ちだから昇天してたらどうしようかと思ったよ」
「そんなに?」
「そんなに」
「もう私のこと飽きちゃったかなって思った」
「どうして?」
「だって、私が全然返事しないから……」
航太は腕を緩めてリカを解放する。
目を伏せたリカはいじらしいほどにモジモジしていて、航太の胸をさらにキュンとさせた。
「先輩、まだ私のこと……好き?」
「好きだよ。大好き。これからもっともっと好きになる予感しかしない」
満面の笑顔で言い切る航太はまるで太陽みたいに眩しくてリカを明るく照らす。
その手を取ればぎゅっと力強く握ってくれる。
あたたかくて頼もしい。
嬉しさで胸がいっぱいになることがあるんだと、リカはこのとき初めて実感した。