先輩が愛してくれた本当のわたし
「リカちゃんは明日仕事だっけ?」
「仕事だったんですけど、今日ビンゴの景品買いに行くって言ったら今日が出勤扱いで明日はお休みになりました」
「え、じゃあ今って仕事中ってこと?」
「……そういうことになっちゃいますね」
「俺とサボってていいのかぁ?」
「うっ……怒られたら先輩がフォローしてください」
「ははっ! いいよ。俺が無理やり連れ回したってことにしよう」
楽しそうに笑う航太につられてリカもふふっと笑う。航太となら怒られてもいいかなと思ってしまうほど航太への信頼感が大きくなっていることに気づいてリカの胸はトクンと高鳴った。
「俺も明日休み。今日は夜まで一緒にいてもいい?」
「はい、もちろんです」
夜までまだたっぷり時間はある。これから何をしようか、どこに行こうか。それを二人で考えながらおしゃべりする時間がとても尊いものに思える。
リカが行きたいといった雑貨屋では、まるで航太が行きたいと言ったのではなかろうかと錯覚するほど楽しそうにしているし、航太が行きたいと言った本屋ではリカを飽きさせないように本の紹介が始まる。
リカはこんなに楽しくて時間があっという間に過ぎてしまうデートは初めてだった。
たっぷりあった時間なのに、気づけばもう夕方。
陽が傾くと吹き抜ける柔らかな風も少しばかりひんやりとしたものに変わる。
夜景を見ようと上がった展望台で、リカはぶるりと体を震わせた。七分袖のカーディガンでは少しばかり冷える。
「寒い? 俺の上着使う?」
航太がジャケットを脱ごうとするのでリカは慌てて首を横に振る。そんなことをしたら航太が冷えてしまうではないか。
「大丈夫、大丈夫。それより、ここすっごく綺麗ですね。そんなに高いところじゃないのに街の明かりがよく見える――」
ふいに後ろから包み込まれるように抱きしめられ、リカは息を飲んだ。航太の息づかいがすぐ近くで聞こえる。