先輩が愛してくれた本当のわたし
「ドラッグストアって冷凍食品売ってたっけ?」
「売ってますよ。ドラッグストアに用事?」
「うん、だって、あれ買わないと」
「あれって?」
「ゴム。リカちゃんの好きなの選んで――って引いてない?」
リカが目を見開いて言葉を失っているので、航太はとたんに慌てる。またしてもガツガツしすぎたかと己を戒めようと猛省しかけたが、リカは首を横に振った。
「あ、ごめんなさい。引いたんじゃなくて、なんていうか……ちゃんとしてるんだーって思ってびっくりしただけ」
「え、そんなの当たり前だろ?」
「そう、だよね。それが当たり前なんだよね?」
確認するように復唱すればコツンと軽く額を小突かれる。
「もし不安に思うことがあるなら言って。絶対一人で抱え込むなよ。俺だって完璧な人間じゃないから、知らず知らずリカちゃんを傷つけたりするかもしれない。でも、その都度二人で直していこう」
「何言っても怒らない?」
「怒らないよ。俺がリカちゃんに怒ったことある?」
「……ないですね。常に甘やかされて育ってきました」
「だろ?」
真剣な表情をしていたと思えば楽しそうに笑う。
そういうところがまた信頼に値するのだと、リカは思う。今日一日だけでも一段と航太のことを好きになった。
「先輩ってほんと優しい」
「よく言われる」
「ふふっ、調子乗ってる」
「優しい方がいいだろ?」
「うん、優しいのがいい」
人とは不思議なものだ。
あんなにチャラいと思っていた航太なのに、今ではそのチャラさが優しさに見える。愛おしく感じる。
ずっと近くにいたはずなのに。ずっと近くにいたからこそ見えなかったのだろうか。
「先輩、大好き」
呟きはすぐに絡め取られてリカはあっという間に航太の腕の中におさまる。
「俺も、大好き」
耳元で囁かれる声はとんでもなく甘く艶っぽくて、リカは全身がギュンと震えた。
空には朧月がぽっかりと浮かんで柔らかい光を降らせていた。