辣腕海運王は政略妻を容赦なく抱き愛でる【極上四天王シリーズ】
「えっと、もう大丈夫なので。行ってくださってけっこうです。ありがとうございました」

 すると、私の言葉が思いがけなかったのか、涼しげな目が大きくなった。

「君は……」

「あなたはクルーズ船のツアー客ではないですよね?」

 オレンジシャーベットのサンドレスの左胸の上に貼ってあるシールを示す。

 ツアー客は胸の辺りに指定のシールを貼っているが、彼にはない。

「いや、そうだ」

「でも、シールが……」

 彼はボディバッグを体の前にしてツアーシールを見せた。

「あ……すみません。お見かけしたことがなかったので」

 こんなかっこいい人、クルーズ船にいた? 見かけていたら絶対に忘れないだろう。

 白いTシャツを着て、カーキの細身パンツの裾をロールアップしている。

 三十代前半から真ん中くらい……?

 先ほどの外国人男性と二時間過ごすのは嫌だったが、成り行きとはいえ、会ったばかりのこの男性とも長い時間過ごすのは疲れそうだ。

「あの、席を移動します。ありがとうございました」

 もう一度お礼を言い、立ち上がる。

「俺がいなくなったら、あの男がやって来るぞ? 今もチラチラうしろを見ている」

 そう言われて外国人男性の方を見ると、彼がちょうど振り返ったところだった。

 目と目が合ってしまい、小さくため息を漏らしもう一度座った。

「それにもう空いている席もないな」

< 36 / 97 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop