辣腕海運王は政略妻を容赦なく抱き愛でる【極上四天王シリーズ】
「……そうですね。それでは相席よろしくお願いします。私は和泉といいます」

 念のため警戒してフルネームを教えるのは避け、名前だけを口にする。

「俺は……(こう)だ」

「コウさんですね」

 彼も名字を知らせないのは、この場限りだという意思表示かもしれない。

 キュランダ高原鉄道がゆっくり動きだした。ひとりだったらワクワクして窓に張りついて写真を撮っているだろう。

 でも、今の関心事は隣の男性についてだ。

 彼のような人がひとりでクルーズ船に?

「コウさん、お尋ねしてもいいでしょうか?」

 脚が長い彼にこの座席は窮屈そうだ。

 考えにふけっていたのか、彼は「え?」と我に返った様子で私へ顔を向けた。

「今なんて言ったんだ?」

「お聞きしたいことがあって」

「……どうぞ」

 若干答えるのに時間がかかって、聞かれたくないのだろうと推測する。

「横浜を発って九日が経ちましたが、私は一度もあなたを見かけていないんです。どうしてかなと」

 私の疑問に、コウさんは一瞬あきれた表情になってからクッと笑う。

「クルーズ船の乗客は四百人以上いるのに、一人ひとりの顔を覚えるのは無理なんじゃないか?」

「もちろんそうですが……」

 彼のようなカリスマ性というか、日本人離れした美形の人がいたらすぐにわかるのではないかと思う。

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