辣腕海運王は政略妻を容赦なく抱き愛でる【極上四天王シリーズ】
 あっという間にもう行程の半分が過ぎて、シドニー、グアムを回れば日本に戻る。真夏のこんなに開放的な夜を過ごしているのに、日本は真冬。

 そして父に、縁談相手は来なかったことを話さなければならない。激高するのは目に見えている。

 真冬のように心が冷えきってしまいそうだ。

「どうした?」

「え? あ、いいえ。もうクルーズの旅も半分以上過ぎてしまったんだなって」

 そんなふうに思うのは、コウさんと出会ったからこそなのだろう。

「早く日本に戻りたい?」

 気のせいか、そう聞く彼の声に少しとげがあるように思えた。

「……ずっとここにいられたらと思います。帰国したら試練に耐えなくてはならないから」

「試練に耐える?」

 コウさんは首をかしげ、微かに眉根を寄せる。

 つい気持ちを吐露してしまったことに気づいてハッとする。

「そ、そうです。新入社員としての試練が。もう部屋に戻らないと」

「そうだな……そろそろ戻ろう」

 コウさんはスマホの画面に視線を落とし、時間を見て立ち上がる。

 時刻はもうすぐ二十二時。いつもこの時間に私たちはさよならをする。彼も同じ10デッキだったので、エレベーターに乗って一階下へ向かう。

 部屋が右側と左側なので、エレベーターを降りたところで別れる。

「おやすみなさい」

「おやすみ。明日十時にここで」

「はい」

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