辣腕海運王は政略妻を容赦なく抱き愛でる【極上四天王シリーズ】
 寄港前日の観光セミナーには参加できなかったので、スマホでシドニーの観光地はある程度ピックアップしていた。

「おいで。こっちだ」

 コウさんは、何台か駐停車しているうちの黒塗りの高級車に近づく。その車の横には四十代くらいの白人男性が立っている。

 彼は丁寧にコウさんに会釈した。

「あの、この車は……?」

 白人男性は運転手だろうか、紺色の制服を着ている。

「取引先の会社が用意してくれたんだ。彼が運転手で、今日一日使わせてもらえる。乗って」

 後部座席のドアを、運転手は開けて待っている。

 取引先の会社が用意……それにしても、高級すぎる気が……。こんな待遇をしてもらえるのだから、やっぱりコウさんは旅行会社の平社員とは思えない。

「和泉?」

「あ、はい。それではお言葉に甘えて」

 ドアのところに立つ運転手に頭を下げてから、後部座席に乗り込んだ。コウさんが隣に座ると、ドアは外側から閉まった。

 コウさんは淀みない英語で運転手に行き先を告げ、車は静かに動きだした。

「ケアンズのときも思ったんですが、コウさんの英語はどこで習ったんですか? とても流暢ですよね」

「親の仕事の関係で小さい頃からスイスのジュネーブに住んでいたんだ。大学を卒業してから日本に戻ってきたから」

「わぁ、帰国子女だったんですね。スイスに住んでいたなんてうらやましいです」

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