辣腕海運王は政略妻を容赦なく抱き愛でる【極上四天王シリーズ】
 ミュージカルは初めてだ。もちろん演目は英語だけれど、映画で見て内容はわかっているので、華やかに繰り広げられる世界に魅了されて楽しんだ。

 終演後オペラハウスを出て、むわっとした暖かい空気に包まれる。観客席は冷房が効いていたので、この暖かさは気持ちがいい。

 階段を下りながら、コウさんが買ってくれたパンフレットを胸に満足のため息を漏らした。

「コウさん、連れてきてくれてありがとうございました。パンフレットも。素敵な記念になりました」

 パンフレットを自分で購入しようとしたのだが、彼は頑として譲らなくて、私が折れたのだ。

「和泉の様子で楽しんでいるのがわかったよ」

「楽しんでいるどころじゃなかったです。興奮していました。こんなふうにクルーズ船の旅を有意義に過ごせるなんて、私……コウさんと出会えて本当にラッキーでした」

 隣で歩を進めていたコウさんが、突として立ち止まる。

「……俺もそう思う」

 そう言って、彼はふっと口もとを緩ませて麗しく笑みを浮かべた。

 コウさんにとっては何気ない笑顔なのだろうけれど、私にとっては心臓を撃ち抜かれたくらいに破壊力があって、心臓がうるさく暴れ始める。

 コウさんの目を見ていられず、夜景を見るふりをして視線を動かした。

「ラ、ライトアップされたオペラハウスを撮らなきゃ」

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