恋の味ってどんなの?
突然のことに藍里は離れた。
「バカ」
「……ごめん、つい」
「ついじゃないでしょ」
二人は再び距離を縮める。手を握る。
「今日はここまでだよ」
「すまなかった。でも手はいいんだな」
藍里は頷いた。清太郎はぎゅっと握った。
「あのさ、おじさんが……あの話したのは初めてだけどな。おじさんのお姉さんは自殺したって言ってた。げっそり痩せて帰ってきたってのは死に顔がそうだったらしい」
「……帰ってきた時はもう亡くなってたの?」
「だってよ。俺が生まれる前のことだから母さんも見たことあったらしいけど……こき使われて耐えきれずに自殺、荼毘にされずに田舎に遺体をじいちゃんたちが持って帰ってきたらしい」
「……そんなひどい」
「だから俺は母ちゃんに昔から俺に好きな女を泣かすな、酷いことするな、優しくしろ、守れってどれだけ言われたことか」
だからか、清太郎の優しさは、と藍里は思った。
「さくらさんには時雨さんがいるし、お前には俺がいる。だからもう怖くない。逃げなくていい。辛い思いした人が逃げなくてもいい」
そう清太郎が言うと藍里は抱きしめた。
「手、繋ぐだけじゃなかったのか?」
「なんとなくね。てか、清太郎もお母さんたちが嫌で逃げてきたくせに。子供の頃からお母さんやお姉さんたちに女は大事しろ、とかってさ……そう押さえつけられてて嫌だったんでしょ、辛かったんでしょ……」
「……」
清太郎は図星で声が出なかった。ぎゅっと藍里は抱きしめると清太郎も抱きしめた。
そしてベッドにそのまま倒れ込み、二人は見つめあった。藍里は時雨との抱擁とは違ったものを感じた。匂いも感触も違う。
清太郎の目は涙で潤んでいた。藍里も涙がでる。
そしてキスを再び……。
「おーい、藍里ちゃん。清太郎くんー」
階下から時雨の声がした。二人はハッとした。
「時雨くん、若い子たちが二人でおるのに邪魔したらいけないよ」
と一緒に里枝の声もした。かなりでかい声。時雨が何か言ってはいるが聞こえない。
藍里と清太郎は笑った。そして、改めてキスをした。
休憩時間いっぱいまで二人で抱き合って何度もキスして見つめあった。
「子供の頃さ、一緒に寝たの覚えてるか」
「うん、てかよくある幼馴染エピソード」
「かなぁ。藍里といるときが一番落ち着いた」
「わたしも、清太郎といる時が一番落ち着いた……」
「てかなんか……これまでに彼氏いたのか」
藍里はドキッとした。もちろんいなかったがその前には時雨に抱きしめてもらった、それくらいだがそれはカウントされないだろうかとヒヤヒヤした。
「いないよ、てか清太郎は? なんかやけに手慣れてる」
「手慣れてるって……いねぇよ。漫画とかドラマとかそういうやつ」
「そういうやつって、やっぱり見てるんだ」
「……悪いか、ちゃんと健全なやつ」
「健全なやつって何よー」
と茶化す藍里の唇を清太郎が唇で塞ぐ。何度も口づけをする。鼓動が重なり合う。
「もう、下に行こう……」
「……だな」
「恥ずかしいね、降りるの」
「藍里から降りろ」
「……うん」
ともう一度キスをして抱きしめあった。
案の定、藍里が階段から降りると時雨はいつも以上に忙しなく動いていた。
悩み事や考え事があるときは動いてた方が楽だ、それを言っていたのを思い出した藍里。隣では里枝夫婦たちがにこやかに待ってた。
「ほれ、準備して。さくらさんいないから藍里ちゃんが今度レジしなきゃ」
「はぁい」
と髪の毛を束ねてエプロンを着た。時雨は少し寂しげな顔をしていたが仕込みに集中していた。
「私、表立ってくるね」
「おや、どうしたの」
「まだ惣菜残ってるんでしょ。外で出してくる……清太郎ーっ、清太郎ー」
藍里が清太郎を呼ぶ。遅れて降りてきた清太郎。少しドキドキが残ってはいる。時雨が清太郎を見ている。
「どうしたんだよ、藍里」
「清太郎、外で惣菜出して売りたいの」
「えっ……」
今まで藍里は店の中でレジをしていた、さくらに言われた通りに中で仕事をしていた。
藍里は決めたのだ。もう逃げる必要はない、中に閉じこもってはいけないと。
「藍里ちゃん、いいのか……」
時雨も心配している。が、里枝と里枝の夫は頷いた。
「じゃあ出すかね、いい案じゃない。藍里ちゃん。せいちゃん、手伝って!」
「は、はい!」
藍里は店の外に出た。深く息を吸った。清太郎が横に立つ。
隣に清太郎がいるから大丈夫、と。
「はい、これも売ってよ。店長さんが材料残ったってつくりました」
大学芋を時雨は持ってきた。
「あ、これ美味しいやつー」
「まじか?」
「うん、あ……いらっしゃいませ!」
時雨は店内から見守るか、と中に入っていった。
「バカ」
「……ごめん、つい」
「ついじゃないでしょ」
二人は再び距離を縮める。手を握る。
「今日はここまでだよ」
「すまなかった。でも手はいいんだな」
藍里は頷いた。清太郎はぎゅっと握った。
「あのさ、おじさんが……あの話したのは初めてだけどな。おじさんのお姉さんは自殺したって言ってた。げっそり痩せて帰ってきたってのは死に顔がそうだったらしい」
「……帰ってきた時はもう亡くなってたの?」
「だってよ。俺が生まれる前のことだから母さんも見たことあったらしいけど……こき使われて耐えきれずに自殺、荼毘にされずに田舎に遺体をじいちゃんたちが持って帰ってきたらしい」
「……そんなひどい」
「だから俺は母ちゃんに昔から俺に好きな女を泣かすな、酷いことするな、優しくしろ、守れってどれだけ言われたことか」
だからか、清太郎の優しさは、と藍里は思った。
「さくらさんには時雨さんがいるし、お前には俺がいる。だからもう怖くない。逃げなくていい。辛い思いした人が逃げなくてもいい」
そう清太郎が言うと藍里は抱きしめた。
「手、繋ぐだけじゃなかったのか?」
「なんとなくね。てか、清太郎もお母さんたちが嫌で逃げてきたくせに。子供の頃からお母さんやお姉さんたちに女は大事しろ、とかってさ……そう押さえつけられてて嫌だったんでしょ、辛かったんでしょ……」
「……」
清太郎は図星で声が出なかった。ぎゅっと藍里は抱きしめると清太郎も抱きしめた。
そしてベッドにそのまま倒れ込み、二人は見つめあった。藍里は時雨との抱擁とは違ったものを感じた。匂いも感触も違う。
清太郎の目は涙で潤んでいた。藍里も涙がでる。
そしてキスを再び……。
「おーい、藍里ちゃん。清太郎くんー」
階下から時雨の声がした。二人はハッとした。
「時雨くん、若い子たちが二人でおるのに邪魔したらいけないよ」
と一緒に里枝の声もした。かなりでかい声。時雨が何か言ってはいるが聞こえない。
藍里と清太郎は笑った。そして、改めてキスをした。
休憩時間いっぱいまで二人で抱き合って何度もキスして見つめあった。
「子供の頃さ、一緒に寝たの覚えてるか」
「うん、てかよくある幼馴染エピソード」
「かなぁ。藍里といるときが一番落ち着いた」
「わたしも、清太郎といる時が一番落ち着いた……」
「てかなんか……これまでに彼氏いたのか」
藍里はドキッとした。もちろんいなかったがその前には時雨に抱きしめてもらった、それくらいだがそれはカウントされないだろうかとヒヤヒヤした。
「いないよ、てか清太郎は? なんかやけに手慣れてる」
「手慣れてるって……いねぇよ。漫画とかドラマとかそういうやつ」
「そういうやつって、やっぱり見てるんだ」
「……悪いか、ちゃんと健全なやつ」
「健全なやつって何よー」
と茶化す藍里の唇を清太郎が唇で塞ぐ。何度も口づけをする。鼓動が重なり合う。
「もう、下に行こう……」
「……だな」
「恥ずかしいね、降りるの」
「藍里から降りろ」
「……うん」
ともう一度キスをして抱きしめあった。
案の定、藍里が階段から降りると時雨はいつも以上に忙しなく動いていた。
悩み事や考え事があるときは動いてた方が楽だ、それを言っていたのを思い出した藍里。隣では里枝夫婦たちがにこやかに待ってた。
「ほれ、準備して。さくらさんいないから藍里ちゃんが今度レジしなきゃ」
「はぁい」
と髪の毛を束ねてエプロンを着た。時雨は少し寂しげな顔をしていたが仕込みに集中していた。
「私、表立ってくるね」
「おや、どうしたの」
「まだ惣菜残ってるんでしょ。外で出してくる……清太郎ーっ、清太郎ー」
藍里が清太郎を呼ぶ。遅れて降りてきた清太郎。少しドキドキが残ってはいる。時雨が清太郎を見ている。
「どうしたんだよ、藍里」
「清太郎、外で惣菜出して売りたいの」
「えっ……」
今まで藍里は店の中でレジをしていた、さくらに言われた通りに中で仕事をしていた。
藍里は決めたのだ。もう逃げる必要はない、中に閉じこもってはいけないと。
「藍里ちゃん、いいのか……」
時雨も心配している。が、里枝と里枝の夫は頷いた。
「じゃあ出すかね、いい案じゃない。藍里ちゃん。せいちゃん、手伝って!」
「は、はい!」
藍里は店の外に出た。深く息を吸った。清太郎が横に立つ。
隣に清太郎がいるから大丈夫、と。
「はい、これも売ってよ。店長さんが材料残ったってつくりました」
大学芋を時雨は持ってきた。
「あ、これ美味しいやつー」
「まじか?」
「うん、あ……いらっしゃいませ!」
時雨は店内から見守るか、と中に入っていった。