恋の味ってどんなの?
第20話
時雨は藍里と共に案内通りにオーディション会場に行く。人がたくさんいたためすぐわかったようだ。
すれ違う人たちは
「受かるかなぁ……」
「書類審査である程度落としたとかいう割には1日かけてたくさんの人呼んでるよね」
「にしても生の綾人にはびっくりしたわーびっくりして声ひっくり返ったり泣いてる子いたわー」
と大声で話す人たちは大抵素人だと藍里は察した。芸能事務所に入っている人たちは大抵はオーディション内容を外で明け透けに話すことはほとんどなかったという記憶があるのだ。
時雨が勢いよく会場近くまで走ったため二人とも息を切らす。
「……ここの中に……お父さんがいるのね」
「今日来てるのか……気合い入ってるなぁ」
オーディションも実に数年ぶりである。いつもはさくらが付いてきた。しかし今日は時雨がそばにいる。
綾人がいるという噂を聞きつけた野次馬もいるがスタッフから制止されている。
「オーディションの方ですか?」
スタッフから声をかけられた藍里。野次馬の一人と思われたのだろう。
「はい、書類もあります」
「確認いたしました。時間まであちらで……高校生ということですがお隣の方は」
スタッフが時雨を見る。時雨は顔をシャキッとさせて
「ほ、保護者です」
「はいかしこまりました……親さんの同意書は百田さくらさんになっていますが、あなたはご主人ということですね。藍里さんのお父様」
「……はいっ」
「では、ご一緒に」
通された控室、一人でいるものから親かマネージャーらしき人と一緒にいる人までいろんな女の子がいる。だいたい年代は同じだろう。
静まり返るほどではないが皆緊張しているようだ。
「……マネージャーでもよかったのに」
「そうかもね。だとしたら名刺渡さなきゃいけなかったろうし」
「でも今回は彼氏とは思われなかったのかな」
「やっぱ芸能関係の人はその辺の見極めできるのかなぁ」
藍里と時雨は笑った。
「にしても親の同意書も……どう捏造したんだろ」
「これがなかったら受けられなかったかもしれないからあまり詮索しなくてもいいと思うよ」
藍里はそうかぁ……と思いながらもスタッフから手渡された書類を開いた。
『本日は自己紹介と簡単な演技をしていただきます。次のページの台詞を呼んでいただきます』
「自己紹介……」
子供の頃何度もオーディションをした。自己紹介も最初の頃はさくらが、考えてくれた。小学生に上がると自分で考えて言えるようになってきた。
「あと1時間だけど……」
藍里は頷いた。
「大丈夫。なんとかなる」
「さすがだなぁ、藍里ちゃん。あと……簡単な演技って」
藍里は次のページを開いた。
……藍里はその文字に目を大きく開いた。
『お父さん、ありがとう』
約5年前に綾人が仕事に出た後にさくらと共に市役所の人の車に荷物と共に乗り込み、部屋を出た。その数ヶ月後に電話で震えた声で
『藍里……藍里……』
と聴いたのが最後だった。藍里は何も返す言葉はなく電話機をさくらに返したのを思い出した。
「藍里ちゃん……」
時雨は心配した顔をしている。
「……」
藍里は左手で時雨の手を握る。何も言わない。
時雨も何も言わず手を握り返した。藍里はずっとその一つのセリフを見つめる。
「それではこの列の皆様、お立ちください。今から入っていただきます。もう遅いですが今回のオーディションの内容などはSNSに載せないようよろしくお願いします。また事務所関係者様、保護者様もご入場いただき、後ろの用意された椅子にお掛けください」
スタッフがそう話すと藍里は息を大きく吸って立ち上がった。
「藍里ちゃん……」
「……」
藍里は時雨の手をそっと離した。
すれ違う人たちは
「受かるかなぁ……」
「書類審査である程度落としたとかいう割には1日かけてたくさんの人呼んでるよね」
「にしても生の綾人にはびっくりしたわーびっくりして声ひっくり返ったり泣いてる子いたわー」
と大声で話す人たちは大抵素人だと藍里は察した。芸能事務所に入っている人たちは大抵はオーディション内容を外で明け透けに話すことはほとんどなかったという記憶があるのだ。
時雨が勢いよく会場近くまで走ったため二人とも息を切らす。
「……ここの中に……お父さんがいるのね」
「今日来てるのか……気合い入ってるなぁ」
オーディションも実に数年ぶりである。いつもはさくらが付いてきた。しかし今日は時雨がそばにいる。
綾人がいるという噂を聞きつけた野次馬もいるがスタッフから制止されている。
「オーディションの方ですか?」
スタッフから声をかけられた藍里。野次馬の一人と思われたのだろう。
「はい、書類もあります」
「確認いたしました。時間まであちらで……高校生ということですがお隣の方は」
スタッフが時雨を見る。時雨は顔をシャキッとさせて
「ほ、保護者です」
「はいかしこまりました……親さんの同意書は百田さくらさんになっていますが、あなたはご主人ということですね。藍里さんのお父様」
「……はいっ」
「では、ご一緒に」
通された控室、一人でいるものから親かマネージャーらしき人と一緒にいる人までいろんな女の子がいる。だいたい年代は同じだろう。
静まり返るほどではないが皆緊張しているようだ。
「……マネージャーでもよかったのに」
「そうかもね。だとしたら名刺渡さなきゃいけなかったろうし」
「でも今回は彼氏とは思われなかったのかな」
「やっぱ芸能関係の人はその辺の見極めできるのかなぁ」
藍里と時雨は笑った。
「にしても親の同意書も……どう捏造したんだろ」
「これがなかったら受けられなかったかもしれないからあまり詮索しなくてもいいと思うよ」
藍里はそうかぁ……と思いながらもスタッフから手渡された書類を開いた。
『本日は自己紹介と簡単な演技をしていただきます。次のページの台詞を呼んでいただきます』
「自己紹介……」
子供の頃何度もオーディションをした。自己紹介も最初の頃はさくらが、考えてくれた。小学生に上がると自分で考えて言えるようになってきた。
「あと1時間だけど……」
藍里は頷いた。
「大丈夫。なんとかなる」
「さすがだなぁ、藍里ちゃん。あと……簡単な演技って」
藍里は次のページを開いた。
……藍里はその文字に目を大きく開いた。
『お父さん、ありがとう』
約5年前に綾人が仕事に出た後にさくらと共に市役所の人の車に荷物と共に乗り込み、部屋を出た。その数ヶ月後に電話で震えた声で
『藍里……藍里……』
と聴いたのが最後だった。藍里は何も返す言葉はなく電話機をさくらに返したのを思い出した。
「藍里ちゃん……」
時雨は心配した顔をしている。
「……」
藍里は左手で時雨の手を握る。何も言わない。
時雨も何も言わず手を握り返した。藍里はずっとその一つのセリフを見つめる。
「それではこの列の皆様、お立ちください。今から入っていただきます。もう遅いですが今回のオーディションの内容などはSNSに載せないようよろしくお願いします。また事務所関係者様、保護者様もご入場いただき、後ろの用意された椅子にお掛けください」
スタッフがそう話すと藍里は息を大きく吸って立ち上がった。
「藍里ちゃん……」
「……」
藍里は時雨の手をそっと離した。