恋の味ってどんなの?
その頃、藍里がオーディションを受けていることなんて全く知らない清太郎は路子と清香で名古屋の地下街で買い物をしていた。
もうヘトヘトである。近くにあったベンチに座りスマートフォンを見る。
藍里からもメールは来るわけでもない。もともと彼女はメールをしない。
時雨と2人で大学展に無事行っているのだろうか、変な心配をしてしまう清太郎だがそんなところに清香がやってきた。彼女もヒールできたことを後悔し、ふくらはぎが痛いのか座って揉んでいる。
「姉ちゃんは名古屋なめとんのか」
「なめてた。かなり歩いたからもう疲れたー」
「あそこで靴買ったるから変えや」
「いやよ、スニーカーばかりじゃない。このワンピに似合わない」
清香はそう言いつつも踵を見ると靴擦れを起こしていた。
「早よ選ぶぞ」
「……ほんとあんたは優しいねぇ」
『あんたらが女には優しくって叩き込んだからやろ』と言うのを飲み込んで靴屋に行き、なんとか服に寄せたスニーカーと靴下を選び清太郎は清香に渡した。
その後清香はお礼に、とすぐそばのコーヒー屋でコーヒーを清太郎のために買った。
特にコーヒーは好きでもないが清太郎はとりあえず飲む。再びベンチに戻り久しぶりの姉と弟の会話。
大学3年の清香は地元岐阜の大学に家から通い、保育士を目指している。
「清太郎はどうよ、こっちの暮らしは」
「まぁぼちぼち。里枝さんやおじさんも優しい人だし……まぁ里枝さんがかあさんにそっくりで嫌になるけど」
「確かに。似すぎだよねー」
まぁそこまで2人は仲が悪いわけでもない。
「にしてもあんたはずるいよ。こっちに逃げて」
「逃げるってなんなん」
つい姉との会話になると岐阜弁が出てくる清太郎。ずるい、逃げるという言葉に反応してしまった。
「家からでも通えるやん、なのにおばさんちに住み込んでさ。しかもなに、東京の大学に行くとかあり得んし」
「あり得なくない。もう決めたことや……」
コーヒーがほぼ無くなって氷の溶けた水を口に含ませる清太郎。
「私は大学、県外ですら出してくれんかったし。バイトも地元、就職活動始まったやろ、お母さんはうちから通えるところしかダメとか言うのよ」
「……そりゃ今女2人しかいないから姉ちゃんまでいなくなったら寂しいでしょ、母さん」
「……でもさ、このまま県内に骨埋めることになるんかなぁ。相手も県内の、しかも近くの人同士で結婚とか? 嫌だよそんなの」
清香はふくれっつらである。
「だったら姉ちゃんもこっちくればええやん。名古屋からでも電車一本で姉ちゃんの学校行けるし。就活もなんだかんだで本社が実は名古屋とかかなりあるし」
「……まぁでも名古屋もうちから通えるから」
「だよな」
2人ともそういうと黙った。
「あんたがこっちきちゃったからだよ。ほんとずるいよ」
「まだ言うのか」
「……あんたは甘やかされすぎなのよ。うちの問題も全く知らんし」
「は?」
気づくと清香の目から涙が出ていた。
「……お母さん、父さんと仲良くいってなかった」
「そうやったん? てか何泣いてんの」
清太郎がハンカチを差し出すと清香はそのハンカチを清太郎に突き返した。
「ほらわかってない! 殴る蹴るは無かったけどずっと暴言吐かれたり文句言われたり死んだ婆ちゃんにも……いろいろと。あんたはわかってなかったようだけど私は見てたんだから」
清太郎は分かってないようだ。たしかに中学まで父親方の祖母も同居していたが彼にとっては優しい祖母だった。
「それが原因で今も心療内科に通ってる!」
「嘘だ、あの性格で?」
「表はそうかもしれんけど辛さを隠すためなんだよ。あんたはなにもわかってない、お父さんも」
清太郎は絶句した。父もまた彼にとっては優しくて尊敬できる人でもあった。
「でも気に病んでたのって藍里の母ちゃんたちが逃げたからじゃないのか」
「それもあるけど。お母さんは藍里ちゃんのお母さんどころか誰にも相談してなかった……助けて欲しいって。同じようなことで辛い思いしてるって聞いて話は聞いてたらしいけど……先に逃げちゃってショックだったみたいよ。私は逃げられないのに、って……」
「それは知らなかった」
清香は立ち上がった。
「そこよ、そこなのよ!」
周りの人達もびっくりしている。
「お母さんもおじさんのお姉さんの話聞いてたのもあるし、自分の経験もあって……あんたに女の人には優しくしろって叩き込んでたのにやっぱお父さんに似て分かってない」
「いや、その……」
「そんなんだと藍里ちゃんを不幸にする! ああ、私もお母さんみたいになってしまうよ、このままだと。お母さんもそうさせたくないと思ってるけどお父さんが私の一人暮らしとか許してくれてないって……」
清太郎は清香を落ち着かせるために座らせた。
「……姉ちゃんもこっちくればええやん。父さん今単身赴任中だし」
清香は首を横に振る。
「そんなことしたらお母さんかわいそう。ほっとけないよ……」
「矛盾してる」
清太郎はどうすればいいかわからなかった。
「なーにやってんのよー、疲れた? あと少ししかないから清香、もっと買い物しましょー」
と路子がルンルンでやってきた。
「何泣いてるの? 清香。あら靴新しいのね」
「……清太郎が買ってくれて嬉しくて泣いてるのよ。そうね、まだ私買い物したい」
と路子についていく清香。
「はぁ……」
清太郎は大きくため息をついて2人について行った。
もうヘトヘトである。近くにあったベンチに座りスマートフォンを見る。
藍里からもメールは来るわけでもない。もともと彼女はメールをしない。
時雨と2人で大学展に無事行っているのだろうか、変な心配をしてしまう清太郎だがそんなところに清香がやってきた。彼女もヒールできたことを後悔し、ふくらはぎが痛いのか座って揉んでいる。
「姉ちゃんは名古屋なめとんのか」
「なめてた。かなり歩いたからもう疲れたー」
「あそこで靴買ったるから変えや」
「いやよ、スニーカーばかりじゃない。このワンピに似合わない」
清香はそう言いつつも踵を見ると靴擦れを起こしていた。
「早よ選ぶぞ」
「……ほんとあんたは優しいねぇ」
『あんたらが女には優しくって叩き込んだからやろ』と言うのを飲み込んで靴屋に行き、なんとか服に寄せたスニーカーと靴下を選び清太郎は清香に渡した。
その後清香はお礼に、とすぐそばのコーヒー屋でコーヒーを清太郎のために買った。
特にコーヒーは好きでもないが清太郎はとりあえず飲む。再びベンチに戻り久しぶりの姉と弟の会話。
大学3年の清香は地元岐阜の大学に家から通い、保育士を目指している。
「清太郎はどうよ、こっちの暮らしは」
「まぁぼちぼち。里枝さんやおじさんも優しい人だし……まぁ里枝さんがかあさんにそっくりで嫌になるけど」
「確かに。似すぎだよねー」
まぁそこまで2人は仲が悪いわけでもない。
「にしてもあんたはずるいよ。こっちに逃げて」
「逃げるってなんなん」
つい姉との会話になると岐阜弁が出てくる清太郎。ずるい、逃げるという言葉に反応してしまった。
「家からでも通えるやん、なのにおばさんちに住み込んでさ。しかもなに、東京の大学に行くとかあり得んし」
「あり得なくない。もう決めたことや……」
コーヒーがほぼ無くなって氷の溶けた水を口に含ませる清太郎。
「私は大学、県外ですら出してくれんかったし。バイトも地元、就職活動始まったやろ、お母さんはうちから通えるところしかダメとか言うのよ」
「……そりゃ今女2人しかいないから姉ちゃんまでいなくなったら寂しいでしょ、母さん」
「……でもさ、このまま県内に骨埋めることになるんかなぁ。相手も県内の、しかも近くの人同士で結婚とか? 嫌だよそんなの」
清香はふくれっつらである。
「だったら姉ちゃんもこっちくればええやん。名古屋からでも電車一本で姉ちゃんの学校行けるし。就活もなんだかんだで本社が実は名古屋とかかなりあるし」
「……まぁでも名古屋もうちから通えるから」
「だよな」
2人ともそういうと黙った。
「あんたがこっちきちゃったからだよ。ほんとずるいよ」
「まだ言うのか」
「……あんたは甘やかされすぎなのよ。うちの問題も全く知らんし」
「は?」
気づくと清香の目から涙が出ていた。
「……お母さん、父さんと仲良くいってなかった」
「そうやったん? てか何泣いてんの」
清太郎がハンカチを差し出すと清香はそのハンカチを清太郎に突き返した。
「ほらわかってない! 殴る蹴るは無かったけどずっと暴言吐かれたり文句言われたり死んだ婆ちゃんにも……いろいろと。あんたはわかってなかったようだけど私は見てたんだから」
清太郎は分かってないようだ。たしかに中学まで父親方の祖母も同居していたが彼にとっては優しい祖母だった。
「それが原因で今も心療内科に通ってる!」
「嘘だ、あの性格で?」
「表はそうかもしれんけど辛さを隠すためなんだよ。あんたはなにもわかってない、お父さんも」
清太郎は絶句した。父もまた彼にとっては優しくて尊敬できる人でもあった。
「でも気に病んでたのって藍里の母ちゃんたちが逃げたからじゃないのか」
「それもあるけど。お母さんは藍里ちゃんのお母さんどころか誰にも相談してなかった……助けて欲しいって。同じようなことで辛い思いしてるって聞いて話は聞いてたらしいけど……先に逃げちゃってショックだったみたいよ。私は逃げられないのに、って……」
「それは知らなかった」
清香は立ち上がった。
「そこよ、そこなのよ!」
周りの人達もびっくりしている。
「お母さんもおじさんのお姉さんの話聞いてたのもあるし、自分の経験もあって……あんたに女の人には優しくしろって叩き込んでたのにやっぱお父さんに似て分かってない」
「いや、その……」
「そんなんだと藍里ちゃんを不幸にする! ああ、私もお母さんみたいになってしまうよ、このままだと。お母さんもそうさせたくないと思ってるけどお父さんが私の一人暮らしとか許してくれてないって……」
清太郎は清香を落ち着かせるために座らせた。
「……姉ちゃんもこっちくればええやん。父さん今単身赴任中だし」
清香は首を横に振る。
「そんなことしたらお母さんかわいそう。ほっとけないよ……」
「矛盾してる」
清太郎はどうすればいいかわからなかった。
「なーにやってんのよー、疲れた? あと少ししかないから清香、もっと買い物しましょー」
と路子がルンルンでやってきた。
「何泣いてるの? 清香。あら靴新しいのね」
「……清太郎が買ってくれて嬉しくて泣いてるのよ。そうね、まだ私買い物したい」
と路子についていく清香。
「はぁ……」
清太郎は大きくため息をついて2人について行った。