恋の味ってどんなの?
最終話
それからと言うものの。
もちろん藍里はオーディションには通らなかったものの、会場に来ていた別事務所の人から連絡があり事務所に入らないかという打診があった。
藍里は悩みに悩んだ。進路はとても悩んではいたし、偶然の出来事でオーディションを受けたこともあり運命であろうと思ったがそのまま流されていいものか? と。
今回は丁重に断った。
オーディションの件は地方でのオーディションで、さくらたちや学校だけでなく綾人側もことを大きくしたくないとのことで流出した写真や動画や情報は大半は消され、オーディションも何事もなく終わり娘役も決まったという。
結局は綾人と同じ事務所の所属の女優が務め、近々映画が上映されるとのことだ。
さくらはというとあんなに強気になっていたのにまた月のものが来ると不安定になり、前とは業務内容が変わったのか家にいる時間が長くなりあんなに温厚だった時雨との口論が多くなってしまい、一ヶ月後には2人は別れてしまったのだ。
バイト先には時雨はいる。時雨はもうさくらの恋人ではないのだが藍里は特に彼に対する恋心は無くなっていた。
反対に時雨に関しては藍里のことは優しく見守ってくれていて、彼が卒業した調理学校に藍里は進学を決めた。
時雨が作ってくれたご飯が美味しかったし、心を満たしてくれた。そして時雨と仕事で一緒に料理をしていくうちにもっと勉強をしたいと思ったのだ。
専門学校に進んでも弁当屋のバイトは続けている。
いつものように藍里は時雨が作ってくれた賄いを食べる。
「さくらさん、最近どうかな」
「……まぁぼちぼちだよ。まだ心配してくれているんだね」
「そりゃ、一度は好きになった同士だもん。それになんかこんなこと言うのもアレだけど情が残っているというか、なんというか」
それを聞いて藍里はさくらの元カレたちがまださくらに対して情だけはあるという話を思い出した。
そう思うとさくらは不思議な女性だ……きっと自分の見ていないところでは自分の知らないさくらでいるのだろう。
藍里は羨ましくも思ったが、そうでもないか……と。
「清太郎くんのところにまた行くのか、今日」
「うん」
「高速バスで月に2回、青春だねぇ遠距離恋愛」
「そうかな。今はネットですぐ話せちゃうしさ」
「便利になったもんだ」
「だから月に2回に減らしたんだ、会うの」
「ええええっ、だってネットと生身は違うと思うんだけどね……」
「だよね」
藍里は食器を洗った。
「……今度、お見合いの話があるんだ」
「お見合い……」
「もう歳も歳だし、地元の30歳の女性らしい」
「そうなんだ」
時雨は藍里をじっと見てた。
「写真を見たらとても聡明そうで綺麗な人だった」
「……地元ってことはこの仕事は」
「その子の家が喫茶店でね。ちょうどそのお店の調理やってる人が若い人に頼みたいって言われてて」
「じゃあ条件よかったら地元に帰っちゃうんだ」
「……」
2人の間は静まり返った。
鳩時計が鳴った。
「藍里ちゃん、時間だよ。今から行かないと間に合わない」
「あ、うん」
時雨は無理に明るく振る舞って藍里に荷物を渡す。
「もう、わたしたち親子のことは気にしなくていいんだよ。時雨くんも35歳になったし、自分の人生歩んでほしいな」
藍里がそう時雨の右手を握ってすぐ離した。
時雨はもう一度手を握ろうとしたが愛理は突き放す。ようやく彼も諦めたを
「うん、わかった」
藍里は夕方には東京に着き、バス停で待っていた清太郎に抱きつく。
時雨の言った通り生身の方がいい、確かにと。
清太郎の部屋に行きもう一度ハグをしてキスをした。まだこの遠距離恋愛生活も一年目である。
最初の頃は毎週行っていたが。メールや電話、ビデオ電話を毎日数分だけでもして次第に落ち着いてきた。
夜ご飯を藍里が作る。今日はポトフだ。肉よりもウインナーが好きな清太郎のためでもある。
料理をしながら時雨が地元でお見合いをする、という話をした藍里。
「きっと止めてほしかったんじゃない?」
「なんでよ。もうママとも別れたんだし、会ってもいないんだよ?」
「違う違う」
藍里は首を傾げた。
「時雨くんは藍里ちゃんが好きだったんだよ」
「えっ……」
「本当はさくらさんよりも、藍里ちゃんのことが好きだったのかもしれない」
藍里は手を止めた。
自分も好きだった時雨が、さくらでなくて自分に恋をしていたのかと。
本当にもし2人で会うタイミングが違ったら……。
ダメだダメだと藍里は鍋の中を頭でぐるぐる必要以上に掻き回す。自分の隣には清太郎がいる。
清太郎はそれに気づいた。
「……藍里?」
「そんなことないよ。絶対」
ふうん、と清太郎。
「でも藍里も時雨くんのこと嫌いではなかったんだろ?」
「デリカシーなさすぎ、清太郎のバカ」
「ごめん、ごめん!」
「ばーか、ばかばかばか」
「ごめん、藍里ー」
清太郎は藍里を抱きしめる。藍里は笑った。
「嘘、そういうバカなところ含めて好き」
でも彼女の目から涙が出ていた。清太郎は拭ってやる。そして火を止め、思いっきり抱きしめた。
終
もちろん藍里はオーディションには通らなかったものの、会場に来ていた別事務所の人から連絡があり事務所に入らないかという打診があった。
藍里は悩みに悩んだ。進路はとても悩んではいたし、偶然の出来事でオーディションを受けたこともあり運命であろうと思ったがそのまま流されていいものか? と。
今回は丁重に断った。
オーディションの件は地方でのオーディションで、さくらたちや学校だけでなく綾人側もことを大きくしたくないとのことで流出した写真や動画や情報は大半は消され、オーディションも何事もなく終わり娘役も決まったという。
結局は綾人と同じ事務所の所属の女優が務め、近々映画が上映されるとのことだ。
さくらはというとあんなに強気になっていたのにまた月のものが来ると不安定になり、前とは業務内容が変わったのか家にいる時間が長くなりあんなに温厚だった時雨との口論が多くなってしまい、一ヶ月後には2人は別れてしまったのだ。
バイト先には時雨はいる。時雨はもうさくらの恋人ではないのだが藍里は特に彼に対する恋心は無くなっていた。
反対に時雨に関しては藍里のことは優しく見守ってくれていて、彼が卒業した調理学校に藍里は進学を決めた。
時雨が作ってくれたご飯が美味しかったし、心を満たしてくれた。そして時雨と仕事で一緒に料理をしていくうちにもっと勉強をしたいと思ったのだ。
専門学校に進んでも弁当屋のバイトは続けている。
いつものように藍里は時雨が作ってくれた賄いを食べる。
「さくらさん、最近どうかな」
「……まぁぼちぼちだよ。まだ心配してくれているんだね」
「そりゃ、一度は好きになった同士だもん。それになんかこんなこと言うのもアレだけど情が残っているというか、なんというか」
それを聞いて藍里はさくらの元カレたちがまださくらに対して情だけはあるという話を思い出した。
そう思うとさくらは不思議な女性だ……きっと自分の見ていないところでは自分の知らないさくらでいるのだろう。
藍里は羨ましくも思ったが、そうでもないか……と。
「清太郎くんのところにまた行くのか、今日」
「うん」
「高速バスで月に2回、青春だねぇ遠距離恋愛」
「そうかな。今はネットですぐ話せちゃうしさ」
「便利になったもんだ」
「だから月に2回に減らしたんだ、会うの」
「ええええっ、だってネットと生身は違うと思うんだけどね……」
「だよね」
藍里は食器を洗った。
「……今度、お見合いの話があるんだ」
「お見合い……」
「もう歳も歳だし、地元の30歳の女性らしい」
「そうなんだ」
時雨は藍里をじっと見てた。
「写真を見たらとても聡明そうで綺麗な人だった」
「……地元ってことはこの仕事は」
「その子の家が喫茶店でね。ちょうどそのお店の調理やってる人が若い人に頼みたいって言われてて」
「じゃあ条件よかったら地元に帰っちゃうんだ」
「……」
2人の間は静まり返った。
鳩時計が鳴った。
「藍里ちゃん、時間だよ。今から行かないと間に合わない」
「あ、うん」
時雨は無理に明るく振る舞って藍里に荷物を渡す。
「もう、わたしたち親子のことは気にしなくていいんだよ。時雨くんも35歳になったし、自分の人生歩んでほしいな」
藍里がそう時雨の右手を握ってすぐ離した。
時雨はもう一度手を握ろうとしたが愛理は突き放す。ようやく彼も諦めたを
「うん、わかった」
藍里は夕方には東京に着き、バス停で待っていた清太郎に抱きつく。
時雨の言った通り生身の方がいい、確かにと。
清太郎の部屋に行きもう一度ハグをしてキスをした。まだこの遠距離恋愛生活も一年目である。
最初の頃は毎週行っていたが。メールや電話、ビデオ電話を毎日数分だけでもして次第に落ち着いてきた。
夜ご飯を藍里が作る。今日はポトフだ。肉よりもウインナーが好きな清太郎のためでもある。
料理をしながら時雨が地元でお見合いをする、という話をした藍里。
「きっと止めてほしかったんじゃない?」
「なんでよ。もうママとも別れたんだし、会ってもいないんだよ?」
「違う違う」
藍里は首を傾げた。
「時雨くんは藍里ちゃんが好きだったんだよ」
「えっ……」
「本当はさくらさんよりも、藍里ちゃんのことが好きだったのかもしれない」
藍里は手を止めた。
自分も好きだった時雨が、さくらでなくて自分に恋をしていたのかと。
本当にもし2人で会うタイミングが違ったら……。
ダメだダメだと藍里は鍋の中を頭でぐるぐる必要以上に掻き回す。自分の隣には清太郎がいる。
清太郎はそれに気づいた。
「……藍里?」
「そんなことないよ。絶対」
ふうん、と清太郎。
「でも藍里も時雨くんのこと嫌いではなかったんだろ?」
「デリカシーなさすぎ、清太郎のバカ」
「ごめん、ごめん!」
「ばーか、ばかばかばか」
「ごめん、藍里ー」
清太郎は藍里を抱きしめる。藍里は笑った。
「嘘、そういうバカなところ含めて好き」
でも彼女の目から涙が出ていた。清太郎は拭ってやる。そして火を止め、思いっきり抱きしめた。
終