ハードリップ/オンナ上司はタラコ唇~♥
再度の約束



「…オレは冗談抜きで、中原アキという商品開発推進室二課のトップと心中を覚悟してるんですよ!少々の軋轢などに、通り一遍の配慮なんかしててどうするんですか!それとも、あなたはレジェンヌを単に試供品テストのハードルを超すことで満足するんですか?課長、答えてください…」


「ちょっと、明かりを点けましょう」


アキはベッドから身を起して、寝室の照明を灯した。


「ふう…、風間君が私の考案したレジェンヌの試作品に情熱を持って、ヒット商品にしたいって思いが本気なのはわかってる。でもさ、いくら私と心中って言ってもよ、所詮は企業の中での話よ。転勤や部署移動の辞令が出ればそれは頭越しよ。そんなのあなただって承知なはずでしょ。その上で今の言ってことよね?なら、その深意はどこにあるの?」


女上司からの反応はまさにトシヤの予想通りだった。


「さすが有能な女性の出世頭ですね。話が早い。オレはさっき、あなたの体を抱いて一歩、気持ちが進化してしまったんですよ。自分から誘っててやや気が引けますが、二人が今夜寝たことで、明日二課の重大な針路を決定させた後のあなたとオレ、一つの目的に向かう過程でもぎくしゃくな二人三脚になりますよ。なぜか?あなたなら気づいてると思いますが…」


ここでトシヤはやや挑発気味に際どいけん制球を放った…。


***



「…ええ、そうね。さっきの”行為”の間、二人はぎくしゃくしてた。立場と自分の正直な気持ちに従いたいという、素直な心のはざまでの戸惑い…。それがぎくしゃく感の根っこよ」


彼女は軽くはファウルでかわしたと同時に、勝負球の要求に出た。


「その通りです。ここはどこかお互い心の置き所を調整しないと、我々二人がレジェンヌプロジェクトを転覆させてしましますよ」


「で…、何かいいアイデアでもあるというの?」


”やっとそこにフッてくれた…。なら、ここで勝負に出るぞ!”


トシヤは心の中で気合を込め、ステキな女上司、中原アキに正面勝負を挑んだ。


「…中原さん、年下の生意気な風間トシヤと”再度の約束”を交わしませんか?」


「…」


明らかにアキは顔がこわばっていた。
それは、眉間にしわを寄せて…。


***


「試供品レジェンヌの初期マーケティングに成功すれば、一旦、PTは解散させられるでしょう。通例なら、そこから先は営業部に移行して、ヒット商品にできるかは他の部署次第となる…。であれば、当課でのPT段階で我々の戦略提議を外すことができないような環境を作ってしまうんです。それの道筋を僕がつけます」


「その道筋…、具体的に言ってみて!」


「レジェンヌを中原アキの”社内特許品”に据えちゃうんです。そうすれば、あなたは正式にわが社の新商品として製造される段で、レジェンヌの販促過程にずっと影響力と関与を持ち続けることができ、ヒット商品への戦略では発言権も得る…」


「ちょっと…、それって‼」


アキの顔は赤らみ、その口調は明らかにこわばっていた。


「オレはですよ、レジェンヌとあなたを一線超えた域での重ね合わせに陥っちゃったんです。自己責任っていうんなら、それを受け入れますよ。でも、それだからこそ、あなたとオレでそれに値する到達点までやってみませんかってことです…」


「あなたの言ってる主旨は理解できるし、気持ちも汲める。でも、そうなると、あなた自身の会社での将来を私に捧げるに等しいわ。心中どころか、自分を犠牲にするレベルでしょうよ。それなら、具体的には中原アキとは公私ともに一緒にとかって…、そんなラインを望んでるの?」


「課長、オレもまだ若いし、一人の女性に一生をってところは視野に入ってないんです。あなたとは、拘束しあう仲を求めるつもりはありません。少なくとも今は。…そこで、ズバリ言います。もし、レジェンヌを自分が今言った方向に持ってこれたら、もう一度抱かせてほしい。そういうことで、自分の今の気持ちに割り切りをつけます。で、以降、全力を以って当該目的に突進します」


「あなたって人は…」


アキはあきれた表情で大きく肩で息をついていた。




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