おじさんフラグが二本立ちました



手を繋いで青空を眺めながら聞かされたのは彬との昔話だった


「俺と彬は四歳の時に空手の道場で出会ったんだ
気に入らなければ喧嘩もするし、かと思えば悪巧みもする
離れない女を切るために仕掛けたり仕掛けて貰ったり、本当悪友だと思う」


「よく刺されなかったね」


「面目ない」


「フフ」


「“女の敵”とか言わないんだな」


「あ〜ね、ワンナイトでも良いと割り切れる女とみよは違うから」


「そのハッキリした性格も好き」


「ありがとう」


「どの友達より彬と仲良くなれたのは
根っこの部分が同じだったから」


「根っこ?」


「俺達二人共、自分が選んだ子と結婚出来ないっていう共通の枷があったから」


「・・・政略結婚」


「その通りだよ、彬はそこから抜け出した」


韓国で出会った時のことだろう


そこまで言うと髪を撫でた院長は顔を歪めた


「初めてみよちゃんを見た時に彬の本気が分かったよ」


「・・・」


「夜の街で倒れて入院したあの夜
血相を変えて飛び込んできた彬は、必死で助けてくれって俺に頼んだ
冷酷冷徹で切り捨てた女がどうなろうと見向きもしない彬が、簡単に俺に頭を下げたんだ
その事実に酷く動揺したよ」


「・・・」


「だからかな、みよちゃんを観察したんだ
彬を夢中にさせる高校生をね」


「知らなかった」


「それですぐ分かった
この子は彬のことを好きじゃないって」


見透かされていた


「姉貴に聞いたら“お試し”だって
群がる女はいくらでもいるのに、高校生の女の子を振り向かせる為に、必死になる彬を最初は笑った」


「・・・」


「でも少しずつその気持ちが理解できた
決定的だったのは彬の入院
みよちゃんと一緒に食事に出掛けるたびに嫌というほど実感したんだ」


「・・・」


「作戦なのか天然か、目が離せなくて
みよちゃんといると経験したことのない胸の苦しさを味わった」


苦しそうな顔をした院長は一度目蓋を閉じた


「意地悪だし、思い通りにならないしそうかと思えば可愛いことするし
このまま俺の彼女になれば良いと願ってしまった」


愛実さんの言っていた通りだった


もう一度視線を合わせた院長に
「願いが叶ったよ」と抱きしめられた


「好きだよ、みよちゃん
みよちゃんといると
苦しくて、楽しくて、温かいんだ
毎日知らない感情が溢れ続けるから
毎日毎日幸せだって思えるんだよ」


抱きしめられて聞いた告白は
私の胸も苦しくさせて

院長の身体が震えていることも
何度も声が詰まるのも


全てが私への想いだと実感できた


「お試しだけど、俺の気持ちだけは疑わないで」


“お願い”と続いた囁きは
合わせた唇の中へと消えた



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