おじさんフラグが二本立ちました



お昼まで続いた“話し合い”は
途中何度かお茶を入れ直してくれた


「もう、水っ腹でお腹いっぱい」


「ちゃんとお昼ご飯は食べなきゃ」


「はいはい先生」


「ほら、また茶化す」


「進さんは自炊?な訳ないか」


「何を仰いますやら、何を隠そう
六年間も一人暮らしをしているから
家事のスペシャリストだよ」


「まじ」


「大マジ」


「冷蔵庫に飲み物しか入ってなかったけど」


「最近は必要性がなかったからだよ
それが証拠に・・・ほら、おいで」


手を引かれて見たカウンターキッチンの引き出しの中は
使い込まれたお鍋やフライパン

背面収納にはサイズの違う数多くの食器とカトラリーが並んでいた


「意外」


「今度一緒に料理してみよう」


「みよは、調理実習以外でキッチンに立ったことないの」


「料理はね、食べて貰いたいって想いが上達の近道だよ
俺の場合は自分が食べたいって欲求しかなかったけど」


「フフフ」


話せば話すほど
触れ合えば触れ合うほど


彬との違いに気付かされる

どちらが楽かと聞かれたら
迷いなく院長を選ぶだろう


「じゃあこのまま買ってきたお惣菜を出しちゃおう」


「うん」


パックに入れたお惣菜をお洒落なプレートに分けて出しながら

院長は簡単なスープを作ってくれた


「乾燥わかめと冷凍の豆腐とネギ
これなら帰らなくても腐らない」


「ほんとだ」


お爺ちゃんみたいなことを言う院長が作ったワカメスープは
“簡単”なレシピでも、とても美味しかった


食事の後は並んでお皿洗いをした
ハンドクリームを塗ってくれる院長は指を絡めてクリームを伸ばしながら


「こうやれば二人とも潤う」


やって見たかったシリーズと名付けた色々を実践しているらしい


「次はお昼寝」


「お昼寝なの?」


「みよちゃんの体調も考えてのことだから
先生の言うことには従ったほうが良いよ」


「ここは先生なのね」


「うん」



呆れた視線を送っても
全く響いていない


そうやって居心地の良い院長との時間は


モコモコしたパジャマがここで役に立ったことも


サブスクで観た映画も


夜には手を繋いで出掛けた先で


両腕に華やかな女性を抱く彬を見かけたことも



全て気持ちを確定させるための序章だった











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