おじさんフラグが二本立ちました



相変わらずのスタイルのチャラ男と並んで歩いているだけで周りの視線を集めている


「離れて歩いてよ」


「・・・、初めて言われた」


「世の中の女の子が皆んなアンタと歩きたいと思ったら大間違いだからね」


「・・・うぃーっす」


打たれ強い性格なのか
なんだか憎めないチャラ男と聖愛に向かって歩くこと数分


「いらっしゃいませ」


扉を開かれたのは
チャラ男が経営するイタリアン
【トラットリア壱】の一号店だった

聖愛に通い始めた頃には何度か立ち寄ったこともあるけれど

店舗を増やし始めた頃からか
味が落ちたと客足が減った

それに合わせるように
駅ナカビルのオープンもあって
この店に来ることは無くなった


「サァこちらへ」


大袈裟な振る舞いで通されたのは
然程広くない店内の二つしかない個室だった


「懐かしい」


漆喰で塗られた白い壁に無数にある落書きに触れる


見回していると懐かしい字を見つけた


「これ」


「ん?」


「みよが書いたの」


「へぇ」


入学当初に加寿ちゃんと書いたそれは
“退屈”と殴り書きの文字で

あの頃の日々がその二文字に詰まっている


「コーヒーで良いかな」


「うん」


それに踏み込んでこないチャラ男は
見た目よりいい奴なのかもしれない


「お待たせしました」


運んできたコーヒーを並べると
トレーをテーブルに乗せたまま


「どうぞ」と白い歯を見せた


「怖いんだけど」


「・・・え、なに、顔?」


狼狽えるところがツボを押した


「ブッ、ハハハ」


「え、なに、なんだろ」


「確かに顔も黒くて怖いけど
歯が白すぎるでしょ」


「あ〜、歯ね」


「夜道で会ったら歯だけ見えて、泣くよ?」


「マジか」


「アンタほんとめでたいよね」


「だから言われないって」


「アンタを囲む頭もお尻も軽い女は
少なくとも好意があるんだから言わないわよ」


「みよちゃんは?」


「一ミクロンも無いわ」


「潔く切ってくれてありがとう」


「なにそれ」


「聞いてもいい?」


「答えられることなら」


「進さんと付き合ってる?」


「まぁ、そうだね」


「あの進さんを落とすって
凄いよみよちゃんは」


「あの進さんがどの進さんか知らないけど
私は落としてないからね、だってお試しで付き合ってるだけだもん」


「・・・は?」


チャラ男は口をあんぐりと開けたまま固まった


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