おじさんフラグが二本立ちました



「行きた~い」


残念なことに乗り気の加寿ちゃんは簡単に誘いに乗る


こうなったら何を言っても無駄だ


「楽しみっ」


「友達も来たがってるんだ
みよは家に来るの嫌か?」


加寿ちゃんを落とす方法を選んだくせに狡い聞き方をする


だから、私も「嫌だ」と突っぱねたのに


「嫌われたもんだよな」


落ち込むフリまでするもんだから


「じゃあ、みよちゃんは帰れば良いじゃん。あたしだけ行ってくる」


加寿ちゃんは簡単に策にハマった


「じゃあ、友達だけ来る?」


彬の煽りだとわかっているのに
加寿ちゃんを一人で行かせられないもどかしさに折れる選択しかなかった


「分かった。でも一時間ね」


「やった~」


加寿ちゃんは狛犬とハイタッチまでして
策に嵌った私はずっと眉間に皺を寄せたまま
お寿司さんから出ることになった


「ご馳走様でした」


「今度は二人で来ような」


「・・・」


大通りまで出ると車が二台並んでいた


詰めれば楽に乗れるはずなのに
加寿ちゃんと竹田さんという狛犬は別の車に乗り込んだ


「会いたかった」


車に乗り込んだ途端、膝の上に抱き上げられた身体は身動きも取れないまま唇を塞がれていた


何度も何度も「会いたかった」と呟く甘い声に

マンションに着く頃には、キャバ嬢と歩いていたことなんて忘れていた


「みよはキスすると力が抜ける」


「なにそれ」


「心配ごとのひとつ」


「フフ」


「みよは会いたくなかった?」


「熱だったから、それどころじゃなかったの」


「そうか。元気になって良かった」


無邪気に笑う顔を見ているだけで
いつの間にか釣られている

久しぶりの彬のマンションは変わらず豪華で
玄関の中では、ばあやが出迎えてくれた


「みよさん、いらっしゃいませ」


「お邪魔します」


名前まで知っていることに驚いているうちに


「みよの友達も来るから」と告げた彬は


「どうぞ」とボアスリッパを出してくれた


「可愛い」


「みよが好きそうなのを選んだ」


「買ってくれたの?」


「あぁ」


「ありがとう」


「どういたしまして」


リビングルームに入ると
「みよはこっち」と手を引かれた


「・・・?」


奥の寝室に行くのだろうか
バスタブに落とされたのを思い出して
繋いだ手に力が入った


「何もしないよ、見せたいものがあるんだ」


私を宥めるように繋いだ手に唇を寄せた彬は「どうぞ」と扉を開けた


部屋に入ると大きなクマのぬいぐるみがフローリングの上に座っていた


「可愛い」


私と然程変わらない大きさのぬいぐるみに近付くと抱きついた


「気に入った?」


「うん」


「みよはテディベアを毎年贈られてるって聞いたから
クマが好きだろうって思ってさ」


「誰から聞いたの?」


「祥子ママ」


「お喋りだよね」


「そのお喋りのお陰で、みよの可愛い顔を見られている」


彬の基準はどこまでも私のようだ


「ありがとうはキスが欲しい」


「・・・え」


少し躊躇ったけれど
ここはお礼のため


「ありがと」


触れるだけのキスをすると
そのまま押し倒された 


「やっ・・・やめ・・・んぁ」


性急に深くなる口付けは
思考さえ蕩けさせ

抵抗しようとする力は
簡単に抜けていった



< 17 / 137 >

この作品をシェア

pagetop