おじさんフラグが二本立ちました
眠れないまま迎えた朝は最悪のコンディションで
見るも無惨な顔を落ち着かせるためにシャワーを浴びると加寿ちゃんが部屋で待っていた
「何してんの」
「出掛けるから、支度」
「そうじゃないよ」
加寿ちゃんの顔を見ただけで
此処に来た理由なんて聞かなくても分かっている
でも、ここで負ける訳にはいかない
「また竹田さんからの依頼なの?
いい加減、面倒なんだけど」
「なにそれ」
「なにって、そのままだけど」
「もう、知らないっ」
怒って部屋を出て行った姿に
少しホッとした
一緒にいるだけで、彼女には胸の内もバレてしまう
その為なら喧嘩も売る
いつもより濃いめのメイクに伊達メガネをかけて
祥子ママに“お願い”をした
「みよちゃん、何かあった?」
玄関でブーツを履く私の背後で声を掛けてきた母に
「なんでもない」と突き放すと
母はそれ以上聞いてこなかった
気分の上げ下げが大きい付き合いは終わり
落ち着いたら必要以上に構ってはこないだろう
電車に乗って流れる景色を見ていたら
雪が降ってきた
中央駅に着くと、手を繋ぐカップルがやけに目についた
祥子ママの店が入るビルは繁華街でも大通りに面している
朝の静かな繁華街を眺めてみる
迷子になった夜は、多分ここから奥に入ってしまったんだと思う
大人の世界に足を踏み入れた罰だったのかもしれない
店に入ると入り口の鍵を閉めた
彬はこのビルのオーナー
つい数週間前なのに、とても懐かしい気がした
手早く掃除を終わらせると炭酸水の栓を抜いた
(いくらでも歌って良いよ〜)
今日は豪華な音響で歌いまくる!
思い付く曲を片っ端から入れてみると
バラードばかり歌っている自分に気がついた
背伸びしてみたの
大人になりたくて
でも、無理だった
もう、頑張れない
溢れた涙の理由は・・・ひとつ
歩み寄れなかった自分
・・・
いつものアルバイトの終わる時間より早めに店を出た
また電車に揺られて家に帰ると、友達と連絡を取るために携帯電話の電源を入れた
「・・・っ」
待ち受け画面になった途端
あり得ないほどの通知が表示される
メッセージアプリも着信履歴も八割は彬からのものだった
彼の登録を削除して、登録以外の着信を拒否にした上で
メッセージは既読にしないことを選んだ