おじさんフラグが二本立ちました


頭が割れそうな痛みに目を覚ますと窓から朝日が射し込んでいた


彬はまだ夢の中のようで

どうにか起きて身支度を整えると
立ったままでストレッチをしてみる

慣れないことをしているから
肩でも凝ったかと思ったのに

脈打つ痛さは酷くなるばかりで
左目からは涙が止まらない


「・・・ん」


ソファに蹲ってみるけれど
頭が痛すぎて気持ちも悪くなってきた

いつも常備しているはずの頭痛薬を、忘れていると思っただけで更に痛い気もする


「どうした、みよ」


「頭・・・痛いの」


「待って、ナースコールするから」


慌てた彬のナースコールで看護師長さんがやって来た


「院長先生に診てもらいましょう」


全然動きたくないのに病室から連れ出され
支えられながらもヨロヨロとエレベーターに乗った

どこをどう歩いたかも覚えられないまま、着いた院長室のソファに崩れ落ちる

看護師長さんが何か話してくれているけれど
質問にも答えられないほど悪寒がしていた


「みよちゃんは俺が診るから
君は申し送りに出て良いよ」


「では」


院長の会話が聞こえた途端
冷たい手がオデコに触れた


「痛い所は頭だけ?」


「気持ちも悪い、の」


「今までもこんな風になっていた?」


「ん・・・気持ち悪い」


「吐いたほうが楽になるよ」


チラリと見えたシルバーの容器は
院長が持っていて

なんだかそれを見ただけで踏ん張れる気がした


「胸の音聞かせて」


服の上から聴診器を当てていた院長も
モコモコした厚い素材に諦めたのか


「ごめんね、ボタン少し外すよ」


そう言うとワンピのボタンを外した


「恐らく片頭痛だな」


「片頭痛?」


「その説明は気分が治ってから
まずは点滴をするからね」


ソファから抱き上げられると
デスクとソファセットが見えた

院長はそこからデスクの背後にある扉の中へと入った


フワリと下ろされたのは大きなベッドで

身体を包み込むような感覚に目蓋を持ち上げた


「今が一番しんどいからね
でも、もう大丈夫」


ゆっくりと頭を撫でてくれる
院長の笑顔に緊張が解ける


「ちょっと待ってて」


ポケットの中から院内携帯を取り出して
なにやら薬名を告げる

暫くすると看護師長さんが入って来て
点滴が始まった


「もしも気持ちが悪くなっても遠慮なんてしないこと」


「うん」


「少し眠ると良いよ
起きた時には気分も良くなってるからね」


院長の声ってどうしてこんなに安心するんだろう

耳障りの良い声を聞きながら
ゆっくりと目蓋を閉じた







腕に触れられている感覚に
意識が浮上した


「ごめん、起こしちゃったね」


ベッドに腰掛けたままの院長は点滴の針を抜いていた


「ずっと居てくれたの?」


「あぁ。気分はどんな感じ?」


「気持ちの悪いのは消えてる・・・頭も、だいぶ楽になってる」


「そっか。やっぱ片頭痛だな」


気分が落ち着くと、ゆっくり部屋を観察する余裕が生まれる

記憶の中の院長室より広い此処は
壁一面のクローゼットに大きなベッド
足元の壁につけられたテレビは
ベッドに寝転がることを想定しているようだ

申し訳程度にある小窓からは青空が見えた

仮眠する部屋にしては豪華だ


「この部屋は?」


「ここは俺の隠れ部屋」


「隠れたいことでも?」


「大概は親父から逃げて昼寝」


「フフ、大先生から逃げたいの?
彬と同じお子ちゃまだよね」


「コラっ、治ってきたら意地悪になるよなぁ」


ケラケラと笑い合っているうちに
胸元が開いているのが見えた

その視線に気付いたのか


「あ、ごめんね」


院長は謝るとサッとボタンを留めてくれた


「本当は全部外しても良かったんだけど」


院長はハハハと笑った

少しお喋りしているうちに
悪寒が嘘のように消えていた


「朝ご飯はどうする?」


「今朝はコーヒーも飲めそうにないから
院長だけ行ってきて」


「みよちゃんが行かないなら
俺もコーヒーだけで済ませるよ」


「ごめんね」


「全然気にしなくて良いよ」


「もう少しここで寝ても良いかな」


「ソファベッドじゃ熟睡できてないよな
俺は下に降りるからゆっくり寝るといいよ
彬には暫く点滴って言っとくから」


「ありがと」


ヒーターが入っているとかで
絶妙な温度のベッドが心地よくて
すぐに落ちる目蓋に抗えず


眠りに落ちる瞬間


頭を撫でていた手が唇に触れた気がした







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