おじさんフラグが二本立ちました


次に目を覚ましたのは一時間後だった

かなりの時間が経っていると思ったのに熟睡できていたのだろうか


「心配してるよね」


身体を起こすと、その独特な触感に
ウォーターベッドだと気付いた

寝心地がよかったのはこれだ

妙に上がるテンションにもう一度寝転がった瞬間


「起きたんだね」
扉が開いて院長が入ってきた


身体を起こして丁寧に頭を下げる


「先生、ありがとうございました」


「てか、ずっと“先生”に戻ってるけど」


「治療中は先生でしょ」


「クッ、みよちゃんには敵わない」


ベッドに腰掛けた院長はオデコに手を当て


「熱もないね」と頭を撫でてくれた


マジマジと院長を見る


「・・・ん?」


「制服マジック」


「ん?」


「白衣着て聴診器が首から下がってると格好いい」


「おじさんを揶揄ったな」


肩口をトンと押されて


「・・・あ」


大した力で押された訳でもないのに
ベッドの所為かそのまま倒れてしまった


「ごめんごめん」


手を引いて起こしてくれたまでは良かったけれど

また腕の中に抱き寄せられた


「・・・っ」


「彬には内緒ね」


彬とは違う少し甘い匂いに包まれると動けなくなった


「彬と別れたら俺の彼女になって」


「・・・」


上手く躱す言葉が浮かばないばかりか
不思議と嫌じゃないことに気付いた


「普通ならここで押し倒すんだけど
今日はみよちゃんの体調を考慮します」


冗談ぽい院長の口調に安堵したけれど
きっと院長は本気だ

それが証拠に抱きしめられた身体は解かれそうもない


「お試しってさ」


そう始まった院長の話は
一人だけだと比較の仕様がないという至極真っ当なもの


「・・・確かに」


そう言うと漸く離してくれた


「とりあえず、彬が心配してると思うから病室に戻る」


「一緒に降りるよ」


院長はついてくるらしい


「みよ大丈夫か」


病室に戻って開口一番にベッドからおりて来た彬に抱きしめられた


「点滴して少し身体を休ませたから
落ち着いたけど、無理は禁物だ
症状の説明は後で」


別人のような態度の院長は
それだけ言うと病室を出て行った


「良かった」


眉を下げて無理に笑顔を作る彬を見るだけで
ほんの数分前まで院長の胸の中にいたことに罪悪感を覚えるけれど


独占欲で支配しようとしてくる彬と
気配りのできる院長を天秤に乗せようとする自分もいた


コンコン

「みよさん、大丈夫ですか」


狛犬と入って来たばあやは


「昨日、無理をさせてしまって」


申し訳なさそうに頭を下げる


「片頭痛って診断だから
昨日の疲れじゃないと思うけど」


「そうだ。ばあやが悪い」


彬のこういうところは配慮がないと思う


「はい、気をつけます」


ばあやが謝るから話がややこしくなった


「アイツと食べに行ったのか?」


「・・・は?点滴しただけだよ?」


うんざりするほどの同じやり取りに



これ以上院長と食事に行くと
自分の気持ちが分からなくなる気がした







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