ド底辺の「たらいまわし王女」の私が「獅子帝」と呼ばれるおっさん皇帝に嫁いだら、超溺愛が始まりましたが……。あの、これって何かの間違いではありませんか?
 その背中に見覚えがあるからである。

 このバーデン帝国にやって来て、何度も見つめたことがあるから……。

 馬上で、屋敷や城で、その立派な背中を見つめては安堵し、同時に寂しさや不安を抱いた。

 そのときには将校服で、威厳と自信に満ち溢れていた。だけど、いまは白いシャツに黒いズボン姿で、どことなく気恥ずかしさや自信のなさが感じられる。

 どれだけ恋い焦がれ、望んだことか。手を伸ばそうともけっして届くこともつかむことも出来なかった背中。いいえ、心。
< 188 / 759 >

この作品をシェア

pagetop