ド底辺の「たらいまわし王女」の私が「獅子帝」と呼ばれるおっさん皇帝に嫁いだら、超溺愛が始まりましたが……。あの、これって何かの間違いではありませんか?
「この傷に……」

 彼が言いかけた。

「古傷ですね。大分と前のことですよね」

 剣士である彼に、あまり傷のことを詮索するのはよくない気がする。きっと、不愉快に違いないでしょうから。

「あ、ああ。若かったからな。無鉄砲の結果がこれだ。情けないかぎりだ。筋をやられなかっただけでも幸運だった。やられていたら、剣を握ることが出来なくなったかもしれない」

 そうなっていたら、彼はもしかしたら皇帝になれなかったかもしれない。皇帝という地位は、彼が望んで得たわけではない。だけど、彼が皇帝であるからこそ、いまのバーデン帝国があるといっても過言ではない。
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