ジェシカのプレゼント

ジェシカのプレゼント

 

 メグのママは病気でベッドにいます。治してあげたくても、薬を買うお金もありません。

 どうしてもママの病気を治してあげたいメグは、庭に咲いているマーガレットを街まで売りに行きました。




 パン屋の店先に立っていると、

「ジャマだ」

 と店主に言われ、

 ケーキ屋の前で売ろうとしても、

「向こうへ行け」

 と追い払われました。


 仕方なく、人通りのない路地裏で売ることにしました。

 通る人に、

「……お花を買ってください」

 と言っても、誰も立ち止まってくれません。



 暗くなっても一本も売れず、花はしおれてしまいました。



 次の日も、花は一本も売れませんでした。



 とうとう、最後の5束になってしまいました。

「……お花はいりませんか?」

 でも、誰も足を止めてくれません。

 半分あきらめたそのときです。

「いくらかな?」

 山高帽(やまたかぼう)にステッキの紳士(しんし)が値段を尋ねました。

 びっくりしたメグは、

「えっ! ホントに買ってくれるの?」

 うれしくて、思わず泣いてしまいました。



 事情を聞いた紳士は、花をぜんぶ買う代わりに、娘の友だちになってもらえないかと頼みました。

 メグは、笑顔でうなずきました。




 ーー大きなおうちのリビングに通されると、車椅子に座った同年代の少女がほほえんでいました。

「こんにちは。私はジェシカ。よろしくね」

 ジェシカは、ブロンドの長い髪にピンクのリボンがよく似合っていました。

「私はメグ。あなたのパパにお花を買っていただいたの」

「ジェシカ、ほら、おまえの好きなマーガレットだよ」

 パパは、マーガレットの花束を手にしました。

「わぁー、きれい」

 ジェシカはうれしそうにマーガレットを見つめました。

「何色の花瓶がいいかな?」

 パパが尋ねました。

「んとね、黄色の花瓶にさして」

「はい、はい。いま入れてくるからね」

 パパはそう言って部屋を出て行きました。

「ね、メグ、私の宝物を見て」

 ジェシカはそう言って、(ひざ)の上の、白地にバラの()り物がある丸い箱の(ふた)を開けました。

「わぁー、きれ~」

 そこには、アメジストやルビー、トパーズやガーネットなどの宝石が入っていました。

 キラキラ輝いて、それはそれは美しく、まるでクリスマスツリーの電飾のようでした。

「どれが好き? ひとつあげる」

「えっ! こんな大切な物もらえないわ」

「私があげたいの。その代わり、ときどき遊びに来てね」

「うん」

 ふたりは約束しました。




 家に帰ると、ジェシカにもらったサファイアをママに見せました。

「まぁ~、きれいね。メグ見て、海の中にいるみたいよ」

 ママが感動しています。

「わぁーっ、ホントだ」

 メグが目を輝かせました。

 今度は明かりに透かしてみました。

「ママ、見て、星空みたい」

「まぁー、ステキね」

 そこには、サファイアを見つめる笑顔のママがいました。




 すると、不思議なことが起きました。

 ママはいつの間にか元気になって、ベッドから降りると、キッチンで料理を作り始めました。



 数日後、丘に咲くヒナゲシを束にして、ジェシカに会いに行くと、ジェシカのパパが悲しい顔をしていました。

「……ジェシカは?」

「……天国に行ってしまったよ」

 パパはそう言って、静かに目を閉じました。

「……ジェシカ、また遊ぼ、って約束したじゃない……」

 メグの瞳から涙があふれました。




 ジェシカは、自分の命と引き換えに、ママを助けてくれたのでしょうか……。


 ジェシカ、私たち友だちだよね? ずっとずっと。ジェシカが生まれ変わって、また会うときも……。

 メグはサファイアを手にして見つめると、

「ジェシカ、ありがとう」

 と天国のジェシカにお礼を言いました。

 すると、不思議です。

 ほほえむジェシカの顔がサファイアに浮かび上がりました。

 このとき、ふたりは本当の友だちになったのです。




 メグは、ジェシカに会いたくなったら、サファイアを見つめます。

 そして、お話をします。

 だから、さみしくありません。


 ジェシカは永遠の友だちです。






   おわり
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