落ちて来たのは、イケメンでした。
〇〇でした
「……遅いな」

 今日は仕事が少し早く終わったので、トオルの好きなビーフシチューを作って待っているとメッセージを送っていた。

 少し前に仕事を終えたというトオルから楽しみだと返事があったのだが、中々帰って来ない。

 メッセージを送っても既読が付かないし、電話をしてみても出ない。
 スマホを見られない状況なのだろうか?

 何か事故にでも巻き込まれたのかもしれないと少し不安になったサチは、アパートの前まで出てみることにした。
 そして、下に降りるためのエレベーターの前が騒がしいことに気づく。

「お前、また男連れ込もうとしてたのか⁉」
「ち、違うわよ! 前に会った子だったから、お茶でもどうかって誘っただけよ!」

「いや、それ完全に連れ込もうとしてますよね?」

 男女の声と聞き慣れた男の声。
 彼らを視界にも捉えると、サチは足を止めた。

「前ってことは今まで連れ込んだ男のうちの一人ってことじゃないのか⁉」
「それは……」

「えーっと、俺帰っていいっすか?」
「ふざけんな! まだ話は終わってねぇ!」

 その声や話の内容で上の部屋の住人だと分かった。
 トオルが落ちて来てからもうふた月以上は経っているのに、あの奥さんはトオルの顔を覚えていたという事か。

「……」

 胸の辺りが、少しモヤッとした。
 そんなサチにトオルが気づく。

「サチ!」

 駆け寄ってきて、彼の形の良い眉がハの字になった。

「ごめん遅くなって。帰ろう」

 トオルはサチの肩を抱いて足を進めるが、怒り散らしている旦那さんが見逃してくれるわけもなく……。

「コラ待て! 話は終わってねぇって言っただろうが!」

 怒鳴って近づいて来て、旦那さんはトオルの肩を掴み引き留めた。
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