落ちて来たのは、イケメンでした。
「いいからさっさと出て行ってください」
「……」

 睨みつけたまま玄関の方を指差すが、男は無言でサチを見つめた。

(いや、早く出てってよ)

「んー」
「……なんですか?」

 まじまじと観察するように見られ、聞かずにはいられない。

「いや、あんたよく見ると可愛いなーって。その部屋着もそそられるし?」
「は、はぁ⁉︎」

 ニヤリと笑う男の言葉に思わず体を隠すように自分を抱きしめる。

 確かに今着ている部屋着はキャミソールタイプで、下も短めのハーフパンツだ。
 そこそこ肌の露出がある。

 だが、誰かに見せるようなものじゃない部屋着なのだから何を着ようが自由だろう。
 そこをわざわざ指摘するとか……変態ではなかろうか。

 流石は不倫をする様な人間だとでも言えばいいのか……。


「な、あんた名前は? 俺と一夜のアヤマチしちゃわない?」
「……」

(かっる!)

「お断りします。大体不倫する様な人と関わりたくありませんし」

 軽蔑の眼差しを向けてキッパリと断わる。

 元カレと別れて三ヶ月。
 欲求不満がないと言えば嘘になるが、少なくとも相手は選びたい。

 ましてや、人妻と平気で関係を持とうとするような男はごめん(こうむ)る。


「不倫⁉︎ ああ、そういうことになるのか。でも弁解させて!」

 驚き叫んだ男はそのまま勝手に事情を話し始めた。

 曰く、上の部屋の奥さんとはマッチングアプリで出会っただけだという。
 しかも結婚しているとは聞いていないし、一度だけの関係の予定だった、と。


「そういうわけだから溜まってんだよね。だからオアイテしてくんない?」
「……」

 イケメンが可愛くお願いしてきている。
 だがサチは軽蔑の眼差しを和らげることはなかった。
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