落ちて来たのは、イケメンでした。
「だとしても名前も知らない、突然降ってきた相手とかあり得ないでしょう。ご遠慮します、帰ってください」
「えー? いいじゃん、フリーなんだろ? 俺もだし、問題ないって」

「いや、あるでしょう」
「ダイジョーブ。一夜の戯れだと思ってさ」
「……」

 冷静に対処しようとしていたサチだったが、男のしつこさに流石にイライラしてきた。
 穏便に帰ってもらおうと思っていたが、もう少し強く言ったほうがいいだろうか。

「とにかくお断りです! 帰って下さい!」

 もう一度ハッキリ言って、彼の肩を押そうと手を伸ばした――けれど。

「つっかまえたー」

 伸ばした手を掴まれ、軽く引かれる。
 男の茶色の目と薄い唇が近づいて……。

 スッと、掠るように唇が触れた。

(なっ⁉︎)

「ど? シてみない?」

 誘惑するような囁き。
 自分の顔の良さを理解しているのだろう。

 近くで見た妖しさすら醸し出している微笑みは、彼を一際魅力的に見せた。

「……」

 好みの顔。
 こんな状況でなければ素直に誘惑されていたかもしれない。

 だが、突然落ちてきた不審な男。
 さっさと帰って欲しいのに、一夜を共になどと誘ってくるふざけた男。

 そんな男に、軽く触れるだけとはいえ唇を奪われた。


 この状況に、サチの怒りは頂点に達する。


 イライラして、腹立たしい男。
 この余裕たっぷりなイケメン顔を崩してやりたい。

 そんな思いと、酔っていたこともあって……サチは冷静な判断が出来無かった。

 つまり……。
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